其の55:情念の作家・石井隆「ヌードの夜」

 1970年代、自称<三流エロ劇画家>として(ごく一部で)一世を風靡した漫画家・石井隆が自作の映画脚本から出発して、程なく映画監督となった。あのクエンティン・タランティーノも<好きな日本人監督>のひとりにその名を挙げているほど(やっぱオタクだ)!
 そうして作られた一連の作品ー代表作「天使のはらわた」シリーズに始まり「死んでもいい」、「夜がまた来る」、「フリーズ・ミー」、「GONIN」シリーズ、「黒の天使」シリーズ・・・。その中でも筆者のイチ押しは「ヌードの夜」である。

 石井漫画を知っている人なら説明無用、これまでと同じようにヒロイン・土屋名美と男を巡る<情念と暴力とセックスの物語>が新趣向を交えて展開される(お馴染み、「村木」がどうやって出てくるのかは観てのお楽しみ)。

 石井作品は主として<亭主を殺されたヒロインがヤクザに弄ばれた上、風俗に売り飛ばされる>というような一昔前の<日本的不幸>描写で観客をブルーにするが、その陰惨な状況にあってヒロインは<堕ちれば堕ちるほど輝きをましていく女性>として設定されている。そこが石井作品と他の映画との差異であり、根強い支持を受けている理由である。
 今作でヒロインを務める余貴美子は劇画にそっくり!原作ファンも納得の容姿と演技力で名美役を好演している。また一時期、どんな映画にも出まくっていた(苦笑)竹中直人は<石井の監督デビュー作>の主役であり(トリビア)、今作の映画化を熱望していたというから(=このオリジナル脚本は長い間、お蔵入りしていた)気合い十分!しがない探偵役を軽やかに演じている。暗い話ながら、不思議と希望を感じさせ、微かな爽快感もある。
 近年、石井監督は杉本彩主演で団鬼六の「花と蛇」、「花と蛇2」を監督したがー「1」の方は劇場で失笑が起こりつつも(スケベな観客を大量動員して)大ヒット。笑った口の筆者は当然「2」は未見。SMよりもまた「名美」映画を撮って欲しいと思います!