其の604:祝!再発売アラン・ドロンの「サムライ」

 いま1年で一番いい深緑の季節だと思うのですが、遂に「梅雨」がくる6月に!雨嫌いとしては憂鬱の一語に尽きる・・・(溜息)。


 映画のソフトは・・・長年出続けてるものがある一方、<廃盤>あるいは<封印>となり、永らく再発売されないものも多々ある。せめて、いわゆる“名作“はソフトを切らさないようにして欲しいものだが1967年のフランス映画「サムライ」が、ようやく再発売(長かったよ、メーカーさん)❤
 当時、「イケメンと言えば、この人!」の代表だったアラン・ドロンがタイトルロール通り<侍>を思わせる寡黙でクールな殺し屋を演じたフィルム・ノワールの代表作のひとつ!こんな大メジャー映画をここで取り上げるのは気が引けるけれど・・・廃盤ソフトの更なる再発売をメーカーさんに促す為に敢えて書きます。


 寒々としたアパートメントに小鳥を飼って暮らすジェフ・コステロ(=ドロン様)は一匹狼の殺し屋。その日も依頼された仕事を実行する為、コールガールをしている恋人ジャーヌ(=ナタリー・ドロン)にアリバイを頼んだうえで、あるナイトクラブのオーナーを暗殺した。ところが部屋を出る時、その店のジャス・ピアニスト、ヴァレリー(=カティ・ロジエ)に顔を見られてしまう。その夜のうちに警察の大規模な“容疑者狩り”が行われ、ジェフも大勢いる中の容疑者のひとりとして連行される。ナイトクラブ従業員たちにより面通しが行われるが、当のヴァレリーは「彼ではない」と否定する。しかし、彼を怪しいと睨んだ警視(=フランソワ・ペリエ)は徹底的にマークするよう指示を出す。。ジェフは警察の尾行を巻いて報酬を受け取りにいくが、殺しを依頼した組織は、彼が容疑者となったことを重視し、彼の命を狙う・・・!!


 話の筋としては<21世紀の現在(いま)視点>で見ると、まぁ・・・正直良くあるパターン(←アラン・ラッド主演「拳銃貸します」の焼き直しという説もある)。だが、硬質な映像(カラー映画なのに、モノクロを思わせる沈んだトーン)の中、帽子を目深に被り、トレンチコートを身に纏った寡黙なドロンの姿は・・・文句なくカッコいい!ジョン・ウーが熱狂し、北野武の<キタノブルー>のルーツになっただけの事はある^^。

 監督・脚本はジャン=ピエール・メルヴィル(以前、このブログでも彼の作品「仁義」(’70・仏)を取り上げてマス)。第二次世界大戦従軍後の1946年、自分のプロダクションを立ち上げ、自主製作をスタート。大手スタジオではない&自然光を取り入れた映像スタイル(カメラマンは長年コンビを組んだアンリ・ドカエ)は、後の<ヌーヴェルヴァーグ>一派に大きな影響を与え、<ヌーヴェルヴァーグの精神的父親>と呼ばれた御仁(その証拠にヌーヴェルヴァーグ監督たちの初期作品は大半アンリ・ドカエが撮影してる)。

 今作はメルヴィルの傑作にして大スター、アラン・ドロンとコンビを組んだ記念すべき1作。ドロンの出演を熱望したメルヴィルが、「太陽がいっぱい」も撮っていたアンリ・ドカエ(←近年「アンリ・ドカ」に変わっているもの多し!・・・いつ日本語表記変わったの??)に紹介してほしいとさんざん頼んだが、2人とも個性が強いからあわないだろうとなかなか紹介しなかった。ところがいざ2人が会うとドロンが脚本を気に入って、たちまち意気投合と・・・。人の相性は会ってみないと分からんもんですな(笑)。<余談>だが、この「サムライ」の1967年、ドロンのボディガードが死体で発見されて、彼に殺人容疑がかかった事件も起こったが(ドロンは一時期、フランス暗黒街との関係も噂されてた)、その後もメルヴィルとは「仁義」(’70)、「リスボン特急」(’72)と計3作で仕事してる。

 ドロン演じるジェフ・コステロは、過去が一切語られないので何故、暗殺者になったのかは不明。ジャーヌ(あるいは「ジャンヌ」)ともいつ、どうやって知り合ったのかは一切分からない。ただ、依頼を受けた仕事は必ずやり抜くプロフェッショナルで、なかなかのお洒落。ターゲットを殺す場合も相手が銃を抜いてから自分が撃つーと徹底して自分の美学を貫いている。「相手が先に抜いてから」というのは“侍”・・・というよりは“西部劇のガンマン”だが(笑:メルヴィルは大のアメリカ映画マニア)。一世を風靡した美男子ドロンあってのキャラクターとも言えそう。やっぱり、いい男がやるから様になる訳で。ちなみに冒頭出てくる<「武士道」の引用文>は、メルヴィルによる創作!タランティーノの「パルプ・フィクション」のでたらめ聖書引用と同じく、実際の「武士道」の書籍とは何の関係もないので、そこは気をつけて下さい^^

 後半の展開は当ブログのモットー“ネタバレ禁止”に従って伏せますが(ちょっと意外な展開もあり)・・・警察が大量の捜査員を動員してコステロを尾行する下りが面白い。建物に入ると、裏から出て地下鉄に乗り、そこでも警察の張り込みを想定して、わざと1本見送ったり、乗り降りのフェイントをかけたり・・・勿論、暗殺者が主人公の映画だから若干のドンパチもあるんだけど、こういったサスペンス部分も面白かった。脚本&演出、そして編集が冴えた名シーンだ。


 ジャン=ピエール・メルヴィルのソフトはちょいちょいは出てるけど・・・まだ重要作の1本「ギャング」(’66)が日本ではソフト化されてない(怒)!!「サムライ」の再発売も結構待ったので、頼むからもう出してくれ!!!