其の417:DVD再発記念「影なき淫獣」

 前回、予告した通り今回は“ジャーロ”です(注:ジャッロ、ジャイロの表記も)。で、数あるジャーロ作品のとりあえずの代表としてセレナ・グランディの「デモンズ・キラー」・・・ではなくて(う〜ん、マイナー)、「影なき淫獣」(’73)をご紹介(タランティーノも“スラッシャー映画”として「デス・プルーフ」監督時に頭にあった1本に挙げている)。今作のDVDは長らく“廃盤”になっていて、ネットオークションではマニア向けの高値がついていたけど、先日<デジタル・リマスター版>にて再発売^^!しかもアメリカ公開版&前回のDVDで削除されていたシーンを復元した“完全版”だ。特典映像もあるし(アメリカ版とインターナショナル版のオープニングが全然違うことがよく分かった)いや〜よかったよかった^^


 イタリア・ペルージャ。その学生街である夜、生徒のカップルが絞殺されたうえ、身体をナイフで切り刻まれた惨殺死体で発見された。続いて女生徒がまた一人に餌食に!生徒のダニエラ(=「唇からナイフ」、「カサノバ」のティナ・オーモン)は、現場に残されていた唯一の手がかりであるスカーフに見覚えがあった。自分にしつこく言い寄ってくる同級生のステファノ(=ロベルト・ビサッコ)が同様のスカーフを巻いていたのを目撃していたのだ。恐怖を感じた彼女は、友人でアメリカから来た留学生ジェーン(=「007/サンダーボール作戦」にノンクレジット出演しとるスージー・ケンドール)らを誘って、地方の山頂にある別荘へと出かける。だが、そこにも謎の殺人鬼の姿が・・・!!

 
 既にジャーロについては以前解説したので詳細は避けるが、超簡単に書くと60年代末のテレビの普及から<残酷描写+女の裸>で再び映画館に客を呼ぶためにスタートしたジャンルのひとつ(分かりやすい発想だな〜)。マエストロ:マリオ・バーヴァの「モデル連続殺人!」(’63)頃から残酷描写がはじまって「血みどろの入江」(’70)、後に「サスペリア」を発表するダリオ・アルジェント御大による「歓びの毒牙」(’69)、ルチオ・フルチ大先生の「女の秘め事」(’69)、「幻想殺人」(’71)・・・と続いて今作の登場となる。初期のジャーロでは上流階級のセレブな面々が餌食になるパターンが多かったが、「影なき淫獣」ではヤリたい盛りの学生たちが犠牲となったのが新機軸。客を釣るためとはいえ、スタート早々からぱいおつ(業界用語)のアップなんで(&メインどころ以外の女の脱ぎ率高し)男子は家族や彼女、女房・子供がいる時に今作を観ないこと(気まずいから:笑)!

 原案・共同脚本・監督はセルジオ・マルティーノ(→この人の義姉はジャーロの女王:エドウィジュ・フェネシュ!・・・知らない人は自主学習するように^^)。この人、イタリア映画人にありがちな多ジャンルを手がけた人なんだけど今作以外でメジャー(?)なのは「ドクター・モリスの島/フィッシュマン」(’79)と「片腕サイボーグ」(’86)・・・ぐらいか(苦笑)。「ある殺人者が平凡な父親だった」という実話を元に今作の着想を得たそうだが・・・女体を舐めるようにねちっこく撮るスタイルと観客を驚かすビックリ描写の連発はもっと高く評価されてもいいかも。所詮、映画のルーツは「見世物小屋」だしな(笑)。<謎の覆面男>がエッチなことしてる若い男女を殺すーというスタイルは米映画「13日の金曜日」シリーズ他でも踏襲されているし。ジャーロ(→猟奇スリラーとの言い換えも可)ひいてはスラッシャー映画には<若いうちからセックスしてると地獄に落ちる>という教訓が込められている(爆笑)。

 筆者が参加スタッフで一番驚いたのは・・・今作のプロデューサーが故カルロ・ポンティだということ!この御仁、初期フェリーニの泣ける名画「道」(’54)やピエトロ・ジェルミの「鉄道員」(’56)、妻ソフィア・ローレンを起用した(公私混合)「昨日・今日・明日」(’63)、「ひまわり」(’70)他で知られる大プロデューサーなのに・・・こんな下世話な作品作っていいんか(笑)?!当時、妻・ソフィアがこの仕事に関して夫をどう思ったのか聞いてみたいところだが・・・ポンティをもってしても時流にはさからえなかった・・・ということかいな??

 「土ワイ」同様、胡散臭いキャラクターを多数配しての犯人当てや情緒ある古都から閉ざされた邸宅での惨劇へと移行する2部構成、Wヒロイン制(→ティナ・オーモンをメインとみせかけて、終盤はスージー・ケンドールにスイッチ)は大変いいのだが・・・<今日的な視点>で観ると、つっこみ要素もチラホラある。犯人の覆面はダサいし(→ズタ袋に穴開けただけ:苦笑)、殺した女生徒たちの死体を切断する道具が金ノコ1つって・・・。リアルにいえば人体切断するには骨や筋があるから、それぞれに道具を使いわけねばならず、結構重労働なんだぜ!あんなに短時間&道具ひとつでスパスパ切れないっつーの(→リアルな人体切断処理描写が観たい人は桐野夏生原作の「OUT」や園子温の「冷たい熱帯魚」を観てね)。真犯人も・・・伏線はあるものの、かなり強引な意味付けだし、ラストのバトルがあれで終わるのも・・・ねぇ。勿論、70年代の映画なんでヒロインは、ただ泣いて叫ぶだけ(笑)。アンジェリーナ・ジョリーの「ソルト」みたいな女闘美アクションはないのでご注意!

 
 決して大傑作ではないけれど(イタリア映画通、二階堂卓也先生も著書「マカロニ・アクション大全」で大して評価してない)、“ジャーロとは何ぞや?”という問いには充分答えてくれるだろう。AV借りるには抵抗があるが「映画でおっぱいが観たい!」というスケベな男性にもお薦め(笑)!


 
 <どうでもいい追記>「影淫」もそのテのマニアだけに語り継がせるのが勿体ないので、ここに“記録”したわけだがー次回は、もうちょっとチャンとした(?)作品を選ぼうかな^^。