其の513:壮絶な性と死「赤い天使」

 日本映画史の中で忘れちゃいけない監督の一人が増村保造(1924〜1986)だろう。東京帝国大学法学部出にして同大学文学部哲学科に再入学。そのさ中、大映の助監督として採用されるもイタリア・ローマに映画留学、帰国して大映・助監督に復帰するという超変り種の映画エリート!現在では数々の「大映ドラマ」を手がけた人としても認識されているが、若き日の増村作品は彼独特の凄みに溢れている。今回はそんなマッスーと“名コンビ”と謳われ20本もの作品を残した若尾文子の「赤い天使」(’66)を紹介。同コンビの最高傑作とも言われるが、とりあえず増村の隠れた代表作のひとつとしてチョイスした次第^^



 昭和14年、西さくら(=若尾文子、以下“あやや”)は従軍看護婦として中国・天津の陸軍病院に赴任した。その数日後、消灯後の巡回中、彼女は数人の患者に輪姦されてしまう。その後、深県分院に転属となった彼女は、岡部軍医(=芦田伸介)の下で多忙な日々を送っていた。地獄のような状況の中、西は岡部がモルヒネを常用していることを知る。勤務交代で天津に戻った彼女は岡部のお蔭で命が助かったものの両腕を切断された折原一等兵(=川津祐介)と出会う。そして折原の懇願に従い、西は外出先のホテルで全裸になり彼の希望を叶える。だが折原は病院の屋上から投身自殺してしまう。再び深県分院に戻った彼女は、再会した岡部がモルヒネのために不能になっていることを知って・・・。

 
 増村保造の経歴の続きをちょっと書くと→→→1957年「くちづけ」で監督デビュー後、「氷壁」や「巨人と玩具」、三島由紀夫が主演した異色作「からっ風野郎」から「妻は告白する」、「黒の試走車」、文豪・谷崎潤一郎原作「卍」に勝新の「兵隊やくざ」や市川雷蔵の「陸軍中野学校」と幅広い作品を手がけて今作「赤い天使(原作・有馬頼義、脚本・笠原良三)」を監督。以後も谷崎の「痴人の愛」や怪作「セックス・チェック 第二の性」、江戸川乱歩の「盲獣」にエロ系の「でんきくらげ」や「しびれくらげ」の他、勝新の「御用牙 かみそり半蔵地獄責め」や「悪名 縄張荒らし」も手掛けた。

 さて、この「赤い天使」は<戦争>という最大の暴力装置下で人間の生(&性)と死を描く衝撃作&野心作!モノクロ映像の中で描かれる人間という動物の有り様・・・。これ筆者の生まれる前に作られた映画だけど、ホントに昔の日本映画は凄かったネ。女性目線(→あややのモノローグで物語が進行)で戦争を描いた作品というのも海外含めてほとんど記憶にないし。

 公開当時から現在に至るまで日本よりフランスでの人気が高いという今作だが、それはおそらく<ヒロイン像>にあるようだ。献身的に患者の介護をしつつ(時には患者の過剰な欲求にも応える)、上官相手でも「嫌なことはNO!」をハッキリ口にする西さくら。終盤には死を覚悟して愛する人と共に戦場の最前線へと赴く強い女性(キャッチコピーの「天使か娼婦か」はまさに言い得て妙)。ちなみにシルエットになってるんで見えないけど、あややの裸は“吹き替え”なのでご注意あれ^^(といっても設定&劇伴のおかげでエロくは見えないが)。マッスーの作品は<強烈な自我を持ち、愛憎のためなら死をも厭わない個人主義>=ヨーロッパ的人間観に貫かれている、とよく言われる。ヨーロッパ留学の経験によるものなのだろうが、アメリカでも強いヒロインが映画に出てきたのは70年代からだぜ〜。マッスーが60年代当時から遥か先を観ていたことが良くわかる。

 “先を観ていた”という点において、マッスーは<リアリズム重視>の人でもあった。劇中、手術で傷病兵たちの手足を斬り落とす描写(ギーコギーコと嫌な音がする)にしろ、腕を失った川津の描写(→とても腕を曲げて隠して撮っているとは思えない!)、そしてアップはないのに傷口メイクに本物の蛆虫を集めて撮ったというエピソード・・・。後年、あややは衣装や髪型、セットにおいて過剰に汚しを命じる増村に対して「当時は自分も周りのスタッフも増村さんは大袈裟だと思っていたが、いま観ると全然オーバーじゃない」という旨の発言をしている。そんな描写がより過剰になった結果、大仰な台詞回し&芝居で一世を風靡した(あるいは“ギャグ”として笑いの対象になった)「大映ドラマ」に結実したような気がしないでもない(笑)。

 
 エキストラの数も多いし、中国の村落を再現したセットもリアル(さすが当時の大映。加えて砲撃された兵士の手足が吹き飛ぶ描写までやってたら「プライベート・ライアン」をも先取りしたとは思うが)!「赤い天使」は増村作品の中では余りメジャーではないけれど世界中に数ある「反戦映画」の優れた一本であることに間違いない。「あの後、どうなったのか・・・」と続きが非常に気になるラストカットも素晴らしいと思う。放送禁止用語(「き●●い」、「か●わ」等)が度々出てくるのでTVじゃ放送不可作。是非、DVDで観てね^^


 

 <どうでもいい追記>フジテレビ「笑っていいとも!」が遂に来春終わるそうで。なんせ番組がスタートしたの筆者が中学生の時だからね〜。よくぞこれだけ続いた、という感心&一抹の寂しさが同居してる。最期は・・・これまでタモリが公言していた通り、吉永小百合が来るんだろーなー。是非、小百合様、出演して!!