其の423:何事も程々に?「ショック集団」

 400回を過ぎて紹介するのは“孤高の映像作家”、“B級映画の巨匠”サミュエル・フラー!!・・・マニアには「遅いって!」とお小言を頂きそうだが・・・それだけ映画の世界は広くて深い、っていうことで(苦笑)。ゴダールの「気狂いピエロ」で本人役として出演、「映画は戦場だ!」の名言でも有名なフラー。彼の代表作といえば「最前線物語」(1980)とかカルト映画「裸のキッス」(1964)あたりを挙げるのが普通なんだろうけど今回は「ショック集団」(’63)を紹介!“ニューロティック”の系譜に入る1本で、いま観ると“古典”の臭いもプンプンするが(ちょっと台詞とか大仰)、なかなかあなどれませんゼ^^


 新聞記者ジョニー(=若林豪あるいはチャーリー・シーンにちょい似てるピーター・ブレック)は1年間の<訓練>を受けた後、“狂人”として精神病院に送り込まれた。院内には夜中にアリアを歌う大男や自分を南北戦争の英雄だと思っている男、黒人でありながらKKKの創設者を自認する若者・・・そんな患者たちと接触して“聞き込み”に励むジョニー・・・実は病院内で起った殺人事件の犯人を突き止め、その記事でピューリッツァー賞を受賞するのが、ジョニーの目的なのだ。恋人キャシーを妹と偽り、面会に来させては上司へ連絡する日々。徐々に真相に近付いてゆくものの、院内の狂人たち、そして繰り返される治療・・・ジョニーは精神のバランスを崩し始めて・・・!?(※これ、もちろんテレビじゃ放送できまへん)

 
 サミュエル・フラー(1911〜97)は米・マサチューセッツ州に生まれ、学校に通いながら新聞記者となるものの(23歳の時には小説も執筆)、第2次世界大戦に召集。かのノルマンディー上陸作戦に参加している。戦後、独立プロダクションのプロデューサーに「原稿料も監督料も最低で働く」ことを約束して’49年「地獄への挑戦」で監督デビュー。以後、野心的な作品を次々と発表、母国アメリカの監督たちのみならず、フランスのヌーヴェル・ヴァーグの面々にもリスペクトされるようになった。中にはハリウッド・メジャーとして初の日本ロケを行った「東京暗黒街・竹の家」(’55)なんていう怪作もあるのはご愛嬌^^。「ショック集団」では製作・監督・脚本の3役を兼任、主人公が“新聞記者”ということで、主人公はフラー自身の“投影”といえそうだ。

 筆者は“精神病院が舞台の映画”と言ってパッと思い出すのはミロス・フォアマン監督、ジャック・ニコルソン主演の「カッコーの巣の上で」(’75)とか、一部で熱狂的人気のあるフィリップ・ド・ブロカ監督作「まぼろしの市街戦」(’67)あたりになるのだが、今作と先述の2作で大きく異なるのが主人公が“精神異常を装って入院する”という点。いくら“ジャーナリズム(でも野望マンマン)”の為とはいえ「ここまでやるか?!」とは思うが(笑)、刑事ものによくある“潜入捜査の変革もの”と思って観た方が映画に入りやすいだろう。

 今作は基本、“モノクロ”なんだけど・・・光の当て方が完全にフィルム・ノワール調。特に人の顔半分しかあてないやり方は市川崑バリ。そんな中、主人公に恋人が縮小されて半透明で合成されて入る様が・・・より異常状況下におけるシュール感を醸し出す。またタイトルバックおよび劇中、頻繁に出てくる病棟の廊下(→原題が「ショックの廊下」ゆえ)は遠近感を強調して作られていて印象的!これで医者が大勢歩いてきたらまんま山崎豊子の「白い巨塔」だ^^。

 また今作のフラー演出は変幻自在→→→先程「映画は基本、“モノクロ”なんだけど・・・」と書いたけど、途中3か所、突如<カラーの資料映像>がインサートされる!!それも、その内の1つは、なんと日本の鎌倉の大仏と富士山(驚)!何故、大仏と富士山が出てくるのかは本篇を観て欲しいのだが、この唐突感がリアルな狂人演技に加え、患者たちの精神状況(=話に一貫性や統一感がない)をも表現している。ただ単に「東京暗黒街・竹の家」で来日した時に撮影した映像を使いたかっただけだったりして(笑)。

 
 野望のため、ここまでやる主人公を尊敬すべきか、「何事も程々にしなさい」とアドバイスを送るべきかは・・・微妙なところですな(笑)。フラー的になにがきっかけで60年代前半に、ミステリーの体裁を取りつつ、社会的且つ野心的な題材(→当時としてはかなりショッキングなアイデアだっただろう)を思いついたのかは不明だが、戦争に参加する時、死の恐怖よりも「わくわくした。私にとってはジャーナリズムの一環」と捉えたというフラー。今作は彼の前職でもあった“記者魂”が、他者にはうかがい知れない閉鎖された世界を描いてみたいーという思いの発露だったような気がする。
 

 
 <追悼>アウトロー俳優・原田芳雄さんが亡くなられた・・・。「竜馬暗殺」ほか多くの黒木和雄作品を支えた原田さん・・・。新作が公開されたばかりだったのに・・・。心より原田さんのご冥福をお祈り致します。