其の382:恐怖の復讐劇「告白」

 時間がないので映画「告白」を朝から無理矢理観賞(で、ようやく読むのを止めていた原作の残りを読んだ次第^^)。小説とは、また違った印象を受けたが(ちょっと展開が性急すぎるきらいもあるものの)・・・面白かった。<少年が起こした事件(引いては「少年法」の存在自体について疑問を投げかける)に対する復讐>という題材に関して言えば東野圭吾の「さまよう刃」という優れた作品もあるが(映画はイマイチでしたな)、「さまよう〜」の主人公より「告白」の主人公の復讐方法の方が遥かに強烈!!松たか子、怖すぎ(笑)!!


 春、3月ー。ある中学校、1年B組の終業式にて。シングルマザーの担任教師・森口悠子(=松たか子)は生徒達に「自分は今日をもって教師を辞める」と告げた上で突然「私の3歳の娘はこのクラスの生徒2人に殺されたのです」と告白する。実は彼女の娘は数ヶ月前、学校のプールで溺死体で発見され、警察は単なる事故として処理していたのだった。森口は自ら調べた事件の経緯を語った上で、犯人の2人に<ある復讐方法>を採ったことを語り、教壇を去る。4月、クラス替えもなく進級した彼らの教室では<ある変化>が生じていた・・・。

 
 原作はテレビドラマの脚本家出身・湊かなえの同名小説。衝撃的なラストが物議を醸し、2009年度「第6回本屋大賞」他を受賞しベストセラーとなった。それを自ら映画化の名乗りを上げ監督(脚本も)したのが「下妻物語」、「嫌われ松子の一生」の中島哲也。原作をお読みの方ならお分かりだろうが女教師の<独白>に始まり、語り手が同級生、犯人の家族、犯人たちとコロコロ変わるこの小説は・・・どう考えても映像向きではないスタイル!それをポップで軽快な映像が持ち味の中島哲也(→CMのディレクターだし)が監督するとどうなるのか?・・・筆者の興味はその一点だったのだが、予想はものの見事にいい意味で裏切られ、期待以上の出来映えになっていた(湊かなえは完成した映画を観て号泣&絶賛)。

 それもそのはず、今作は「嫌われ松子の一生」と異なり、中島自身も語っているように基本、原作に忠実に脚色(→犯人の姉の独白とか、なくても差し支えない細かい部分や設定は省略&改変。もちろん、脚本作業は誰もが予想するように相当頭を痛めたそうだ)、ところどころCMディレクターらしい演出を施しつつも、これまでのスタイルを捨て、非常にシンプル&印象的な画作り(色彩もダーク系で統一)に終始している。個人的に「あの文章に、この絵をあてるか!」と感心した部分も多々ありましたわ(→ネタばれになるので詳細は伏せるが・・・クライマックスのあの場面は、よ〜考えたな〜)。

 松たか子は原作同様、あまり感情を表に出さず、淡々と物事を語る主人公を快演&怪演!クライマックスの彼女の存在は・・・冒頭にも書いたけど超怖いぜ^^。もっとも我が娘の遺体をプールに入って救い出す場面では、水の高さばかり気にしていて演技どころではなかったそうだけど(→泳ぎが不得手なんだと)^^。加えて「単なる親バカ」役の木村佳乃、「空気の読めない新人熱血バカ教師(笑)」を岡田将生が熱演。子役たちを含め(→今作を観ると、中学生に携帯電話与えるとロクな使い方をしないことがよく分かる)キャスティングもハマってた^^。

 脚本同様、撮影自体も大変だったそうで大半がロケセット(→実際にある建物を借りて撮影すること)だったものの、内容が内容だけに場所を貸してくれる所が少なく(苦笑)はるばる遠方まで出かけることもしばしば(例:舞台となる中学校は栃木の廃校を利用しての撮影)。おまけに冬場の撮影だったため、現場に行って準備していると、あっという間に日が暮れるわ、春から夏の話なのに人の息が白いんで(爆笑)相当量をデジタル処理したそうだ。まぁ、観ている分にはまるで分からないんだけどね(笑)。

 中島監督はこれまでも自分のスタイルで原作を換骨奪胎してきた御仁だが、今作の演出がキッカケで次のステージに上がったのではないか。前作の「パコと魔法の絵本」はカラフルすぎて、まるで筆者は観る気がしないんだけど(ファンの方、すまぬ)、初監督作「バカヤロー!私、怒ってます(オムニバス映画の第2話担当)」の時と比べると映像的にも、物語を語る手法も格段に上達している。今後がますます楽しみな作家のひとりであることは間違いなかろう。


 今作に限っていえば、原作小説と映画、各々の媒体の持つ特性がよく出ていると思うので「読んで」「観て」ほしいと思う(順番はどちらからでも)。小説の「行間」、映画の「余白」(→どちらも全てのキャラが真実のみを語っているのかどうかも疑問だし、ラストもどうとでも取れる終わり方)を深読みするのも楽しいと思う。 


 それにしても今作がこんなにヒットするとは(筆者同様、ミステリー好きは評判にかかわらず観るとは思ったが)・・・大想定外!これがキッカケとなって今後、少年法改正の動きは・・・出てこねーだろーな〜(残念)。