其の370:イタリア式仕事人軍団「黒い警察」

 久々に<知られざる傑作・快作・佳作シリーズ>を^^。イタリア映画「黒い警察」は、超重厚な社会派作品!「一部の警察官が勝手に犯罪者をしばきあげる」という内容が、「ダーティハリー2」に似ているため「〜2」に影響を与えたとDVDのジャケット等には書かれているけど、絶〜対っ、嘘(「〜2」の脚本書いたジョン・ミリアスに怒られるゾ)!良識ある読者は騙されないように。


 警視庁殺人課警部ベルトーネ(=「続・黄金の七人」や「キャンディ」のエンリコ・マリア・サレルノ)は、マスコミに騒がれている警備員殺しの容疑者が無罪判決で釈放されるわ、2人組の若者による強盗殺人事件が発生する等、続発するローマ市内の凶悪犯罪に頭を痛めていた。マスコミには警察の無能をさんざん叩かれる始末。そんなある日、ひょんなことから2人組の若者のうち片方の身元が判明、逮捕に向かったものの若者は既に4人組の刑事を名のる男たちに連れ去られた後だった。だが、該当する刑事はいない・・・。翌日、射殺された若者の死体が発見される。さらに無罪放免になった男やストリートガール、女装の街娼、大学の過激派委員長と続けざまに殺されてゆく。マスコミは彼らを“黒い警察”と命名ベルトーネは組織の正体について調査を開始するが!?

 先述した「ダーティハリー2」に影響は与えていないものの(笑)、今作の方が「〜2」より先に製作されたのは事実!日本でも<法で裁けない悪人を成敗する>という内容は、一連の「仕事人」シリーズ(藤田まこと氏に合掌)や「デスノート」にも見られる設定。どこの国でも、同様の問題を抱えているということですわ。相手がどんなに悪人でも裁判なしで処刑するのは、残念ながら法治国家においては<犯罪>です!勿論、気持ちはよ〜く判る!!

 監督はステファノ・ヴァンツィーナ。日本では全くといっていい程馴染みのない人ですが、本国イタリアでは喜劇王トトの諸作を連発した職人監督ステーノとして知られている(→「トト」の映画は「ニュー・シネマ・パラダイス」で引用されてましたな。そこから主人公が「トト」と呼ばれるように)。ちなみに今作の脚本はステーノ名義で執筆、本名のステファノ・ヴァンツィーナで演出している。

 ヴァンツィーナが今作を発案したのは、当時(70年代初頭)のイタリアの「死刑復活論」の風潮やネオ・ファシストの台頭、その政治への介入などがあったからのようで、イタリア映画界もマカロニウエスタンが質・実共に終焉を迎えつつあり、戦争ものや「007」をパクった亜流スパイ・アクションの数々(「077」とか実際にある:爆笑)を製作していた時代。喜劇作家ではあっても国の現状を憂いて、この異色社会派作品を手掛けようと思ったのだろう(超好意的に解釈。ただイタリア人だけに、次の新たなヒット路線を見込んでのことかもしれんが。「ゴッドファーザー」の世界的ヒットにより、本国イタリアでマフィアものが量産されるようになったのは今作の直後)。

 作品は全編、陰鬱なムードが漂っている(マカロニ音楽家のひとり、ステルヴィオ・チプリアーニの劇伴がそれを煽る煽る)。警部たちも<いくら逮捕しても法の網目をくぐり抜けて凶悪犯が無罪となっている現状>に悶々としていて、常に渋〜い表情。「これじゃあ、市民は殺され損だ」という主人公の台詞が、当時のイタリア社会を端的に表現している。劇中、印象的なのが警部の発案により新聞記者たちをバスに乗せて夜のローマ市内を巡る下り。ストリートガールを車内に招きいれ「何故、彼女たちが違法行為を合法的に行えるのか?」を警部が記者たちに解説する。「現場を知らない奴は何とでも言える」・・・マスコミの人々よ、まぁ、そういうことだ(苦笑)。

 <ラスト>は・・・まぁ、普通に観ていたら「おっ!?」とビックリする内容(→組織の正体や黒幕は勘のいい人なら途中でピンとくる)。それが後を引くからいい^^。といっても不満が全くないわけでもない。主人公の警部の人物像の掘り下げ方が浅いし、“黒い警察”の登場も本編始まって大分経ってから。もうちょっとテンポよく展開していたら、もっとスリリングになったと思う。このテの題材で半ドキュメント・タッチならシドニー・ルメット(「狼たちの午後」ほか)あたりが手掛けたら、よりタイトでクールな仕上がりになったと思うと、ちと残念(同様の設定でも、娯楽としては「ダーティハリー2」の方が出来は上といわざるをえない)。けれども<イタリア映画の社会派異色作>として記憶されるべき一篇だ。


 <どうでもいい追記>犯罪者の若者のひとり(人質とったワルの方)がラス・メイヤーの「ワイルド・パーティー」のヒロインの恋人役に超似ていたが・・・おそらく他人の空似だろう(アホらしゅうて調べてられへん)^^。


 さてさて次回書くのは(ネタはあっても超多忙)・・・ハイパー日本映画「愛のむきだし」かマイケルの「THIS IS IT」か、はたまた「地球防衛軍」か・・・我ながら一貫性ないな〜(苦笑)。