其の350:社会派感動作「手紙」

 作家・東野圭吾のファンであることを何度も公言している筆者だが、御大はミステリー以外にも様々なジャンルを書いておられる。そのうちの一つが2003年に発表された「手紙」(→映画化は2006年)。肉親に犯罪者を持った家族に焦点を当てた社会派作だ。つい最近も「誰も守ってくれない」が同じ主題を扱っていたが・・・あそこまで今のマスコミは追い回さないって(苦笑)。事務所解雇騒動の、あのエリカ様も出ているよ!


 両親を早くに失い、貧しいながらも仲良く暮らしていた兄(玉山鉄二)と弟(山田孝之)。ある日、兄は弟・直貴の大学進学費用を工面するため空き巣に入ったものの、誤って家主を殺し逮捕される。大学進学を諦め、工場で働きはじめた直貴は極力人目につかぬよう生活しながら、幼なじみとコンビでお笑いのプロを目指しネタ作りに明け暮れていた。そんな彼に工場の食堂で働く由美子(沢尻エリカ)は好意を持ち、度々話しかけてくるようになる。やがて本気でプロを目指し工場を辞めた直貴だったが、ことある度に「人殺しの弟」のレッテルがついて回り・・・。


 「もし身内に犯罪者が出てしまったら?」−これはいつ、誰にでも起こり得ることであり、単なる絵空事ではない。理不尽な世間の差別と偏見によって「進学」も「夢」も愛する女性とも引き裂かれる主人公・・・。だが、兄は自分のために犯罪に手を染めたという事実・・・。切ない。切な過ぎる。
 運命に翻弄される主人公を山田孝之は持ち前のナイーヴさで好演。彼はこの年、すでに連ドラ「白夜行」で東野ワールドを経験済み。「白夜行」も「手紙」と同じく運命に翻弄される青年役だった。もっとも「白夜行」では自ら悪いことするんだけどさ(苦笑)。


 監督はTBSのドラマ演出家・生野慈朗(「3年B組金八先生」、「男女7人夏物語」、「愛していると言ってくれ」あたりが代表作)。劇場用映画を演出するのは今作が16年ぶり、3本目!地味で暗いストーリーと重いテーマに一度は依頼を断ろうとしたという(東野圭吾自身もこれの映像化はないな、と思っていたそうな)。映像面での派手さはないものの、安定した正攻法の演出がリアルでいい(→こういうハードなテーマの内容はケレンでやっちゃうと森田芳光の「模倣犯」みたいに失敗してしまう)^^


 「おじゃまんが」じゃない山田くんのほか、玉山鉄二(略してタマテツ)は出番は大して多くないものの、丸坊主&4キロ減量して懲役囚に。沢尻エリカも可憐な10代の眼鏡っコ乙女から子持ちの人妻までを巧みに演じ分け。これで当時19歳(驚)!!私生活&言動に問題は多々あるものの「パッチギ!」といい、彼女の役者としての才能に異論がある者はなかろう。事務所はクビになったけど・・・実写版「宇宙戦艦ヤマト」に出ないことになったのは良かった気がする(笑:おそらくハリウッド版「ドラゴンボール」みたいになるニオイがプンプンするわ)。このほか要所要所で出演する役者陣(田中要次吹石一恵風間杜夫杉浦直樹吹越満)の演技もとてもいい。


 原作と映画の大きな違いは直貴が「お笑い」志望ではなく、「ミュージシャン」であること。「イマジン」が重要なモチーフになっているのだが、著作権の問題で実現できず(→ジョン・レノンほかビートルズ系は使用料が超高額!映画の「悪霊島」も挿入歌で使われた「レット・イット・ビー」が未だにDVDでも原曲まんま使えてないし)「お笑い」に改変されたのだが・・・これがラストに効いてくるわけよ♪ネタバレになるから詳細は避けるけど、この場面の山田くんとタマテツの演技は感動するよ。


 TVドラマはクライマックスとか、いいところで主題歌かかるのが<お約束のひとつ>だけど、最後にかかる小田和正はーベタといえばベタだけど、筆者は良かったと思う。



 欧米では多少なりとも犯罪者の家族に理解があるようだが(→あくまで個人の問題であって、家族が犯罪を犯したわけではないから)日本はまだまだ。筆者にもそのテの偏見や差別思想が全くない・・・といったら嘘になる。こういうことも日本人は今後考えていかなければいけないと思う。
 残念ながら今作はそれほど話題にならなかったが、社会問題をキチンと取り上げる映画を絶対になくしてはいけない。もし映画が「つまる、つまらない」のみ論じられる娯楽作ばかりになったとしたら筆者は映画を観る行為をやめる。そこまで文化として堕落しないことを切に祈る!