其の319:ブラピ夫妻、各々の最新主演作!

 余りの忙しさに更新が遅くなりました。ハッキリ言って映画観てる場合じゃなかった(苦笑)。そんな状況ながら睡眠時間を削って観た新作映画2本を紹介します(共にまだロードショー中なので書ける範囲で)。偶然ながらブラッド・ピット主演作とアンジェリーナ・ジョリーの主演作である。別に筆者は特にこの夫婦のファンではないけどね!

 
 まずはブラッド・ピット主演「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」。「華麗なるギャツビー」で知られる作家F・スコット・フィッツジェラルドの短編小説の映画化。皆さん、既にご存知の通り赤ちゃんなのに何故か老人として産まれて来た主人公がじょじょに若返りながら人々との出会いと別れを繰り返していく物語。といっても映画は原作の基本設定を頂いただけ。そうじゃなきゃ上映時間が2時間47分もの長さになるわけがない(苦笑)。この尺に賛否両論あるようだが・・・筆者は飽きずに観れましたけどね。でなきゃ上映時間5時間以上の「1900年」や「ファニーとアレクサンドル」は観られませんぜ!

 監督は「セブン」、「ファイト・クラブ」でブラピとコンビを組んだデビッド・フィンチャー。「ゾディアック」以来の新作である。筆者が今作を観た理由は次の一点!「なぜダークな映画で御馴染みのフィンチャーがこんなハートフルな物語を撮ったのか?」。若くして監督になった彼だが、もういい年になったので老成化したのかと思ったが(笑)実はそうでもないようで「単純にストーリーが気に入った」からだそうだ。日本と違ってハリウッドでは企画がいろんな人の手に渡ってゆくのが常だが、かのスピルバーグもプロジェクトにかかわっていた時期があり、そのためスピルバーグ組の常連スタッフであるフランク・マーシャルキャスリーン・ケネディが製作に名をつらねている。

 映画自体はサブタイトル「数奇な人生」の一言に尽きる(笑)。「若返る主人公」という設定は正直SFだけど(理由は語られない)テイストはある意味「大河ドラマ」。主人公が歴史的な出来事にかかわるとか、ヒロイン(ケイト・ブランシェット)が男性より活動的な点で、ちと「フォレスト・ガンプ」っぽいな〜と観ながら思ってたら、なんと脚本家がフォレ・ガンの人(=エリック・ロス)。筆者の推理も伊達じゃなかった(笑)^^

 映画最大の見所は「若返るブラピの映像」だろうが、このテの映画を作る場合、普通は老人時代(=中味はお子ちゃま)や子供時代(=でも中味は老人)には、該当する世代でブラピに似た役者を探して使うのが常套手段だが、さすが元「特撮マン」のフィンチャーは違う!特殊メイクをしたブラピの顔をコンピュータに取り込んで、フィルムにいちいち合成していった。これは「スター・ウォーズ エピソード2 クローンの攻撃」でクリストファー・リーの顔をスタントマンに貼り付けてヨーダとのバトルシーンを作ったのと同じ手法!このおかげでえらい時間と製作費が費やされたそうだ(苦笑)。きっと、これがやりたかったんだろうね、フィンチャーは(笑:でもブラピだけじゃなく、ブランシェットの老けメイクもリアルで良いよ)。
 その他、キューブリックの「突撃」を彷彿させる第1次大戦シーンあり、独軍Uボートとのバトルあり(=久々にスクリーンでUボート観た^^)、これらの要素もフィンチャーの創作意欲をかき立てたに違いない(加えて彼の作品としては珍しくギャグもある)。まぁ、いい映画でしたよ。泣いたりはしないけど(笑)。


 
 さて続いては嫁はん、アンジェリーナ・ジョリー主演の「チェンジリング」。監督&音楽はかのクリント・イーストウッド!「硫黄島2部作」に続いて放つイーストウッド作品は、今作も同じく「実話」の映画化である。勿論、今作を観た理由は「イーストウッドの新作の出来を観るため」だ。悪いか!?

 1928年の米・ロス。シングルマザーのクリスティン・コリンズ(=もちアンジー)は愛するひとり息子ウォルターのため、日々電話交換手として忙しく働いていた。そんなある日、休日ながらヘルプをうけ、やむなくひとり職場へ。ようやく仕事を終えて帰宅すると肝心の息子の姿は消えていた・・・。5ヵ月後、警察からウォルター発見の連絡を受けて大喜びするクリスティン。ところが息子と言われた少年は全くの別人!警察に幾度も主張するが全く相手にされず、しまいには精神異常と見做され精神病院に強制入院!果たして子供は無事戻ってくるのか!?

 いや〜、とにかく恐ろしい話!子供を持つ親の目から観たら、これ以上の悪夢もないのではないか?まさに「事実は小説より奇なり」。当時、不正スキャンダルが続出しバッシングされていたロス市警が「これで好感度アップ♪」とばかりに行方不明の子供をでっち上げたのだから。今も昔もお上なんてのはろくなもんじゃないね(笑:ちなみにキャラのほとんどが実名で登場することも特筆に値しよう)!
 約1年かけて「ウォルター・コリンズ失踪事件」をリサーチして書き上げたJ・マイケル・ストラジンスキーの脚本(=「チェンジリング」とは「取り換えられた子供」の意)を気に入ったブライアン・グレイザーロン・ハワードの「ビューティフル・マインド」コンビがイーストウッドに監督をオファーしたことから製作がスタート。普通なら人に振らずに「ハワードが監督すればいいじゃん」と考えがちだが、ハリウッドではこれもよくあるパターン。ハワードはおそらく「天使と悪魔」の準備で忙しかったのだろう(→筆者の勝手な推測)。

 実はイーストウッド以前に脚本を送られていたのが主演のアンジー。自分も子を持つ母親ゆえ、当初は出演するかどうか大いに迷ったという。で、結果はご覧の通り!「ヤッターマン」のドロンジョ役は断ったが(笑)、こっちは受けたわけだ。で、アンジーが出るということでイーストウッドもオファーをOKしたという。余談だがアンジーを助ける牧師役はジョン・マルコヴィッチ。これは「ザ・シークレット・サービス」で共演して彼の演技に感心していたイーストウッドによるキャスティングである。

 アンジーは「トゥームレイダー」や「ウォンテッド」等でご承知のようにアクションもこなせる人だが、今作も「かけがいのない息子を探し求めて、国家権力さえとも戦いぬく母親」を大熱演!さすがオスカー女優、やっぱりなんだかんだ言っても巧い。イーストウッドもこれまで通り淡々と演出することで、客観的に事態の推移を見守ることに成功している。

 また、こういった「近現代」を描く時は、まだ当時を知る方も存命だったりするので<時代考証>がなにより大事になるのだけれど街の風景(=オープンセットや当時の面影を残すロケセットをフル活用)や衣装(=当時の衣装で使用できるものをアメリカ国内及び諸外国からも収集)もまんま再現されているから凄い。当時の車もバンバン走ってるし、何気に金はかかってます。

 実は・・・これ半分、ネタバレになっちゃうんだけど・・・ロス市警の強引なでっち上げのお話に加えて、後半はこれまた実際に起きた「連続児童誘拐殺人事件」が絡んできて、映画では、この事件そのものがかなりマイルドに脚色されている。それが一般の観客向けには良かったけど・・・現実は超残酷(本当)!結果、どうなるのかは自分の目で確かめてください。そして興味のある方は鑑賞後に是非自分で「連続児童誘拐殺人事件」を調べておくんなまし。まんま映像化出来ないことがよく分かります。それにしてもイーストウッドが引退するとかしないとかでも話題の監督・主演最新作「グラン・トリノ」(4月下旬公開予定)では、こういう展開にならないことを希望する!


 ジャンルが異なるので単純比較は土台無理な話だが、いろいろ考えさせられた点では「チェンジリング」の方が個人的には良かったかも。ブラピ夫妻はもとより(=タランティーノの新作はブラピが主演)フィンチャーイーストウッドの今後にも大いに期待します♪