其の145:大怪作にして大傑作「エル・トポ」

 かのミック・ジャガーアンディ・ウォーホルピーター・フォンダデニス・ホッパーらを魅了し、4度劇場に足を運んだジョン・レノンが独占配給権を買い取った逸話でも知られる<超ウルトラ・カルトムービー>ーそれが「エル・トポ」!「西部劇」の体裁を取りつつも、ありとあらゆる要素が渾然一体となった大傑作にして怪作、問題作である。バイオレンス&エログロ&大勢のフリークス!マジでこの映画はヤバい!!


 物語は「二部構成」となっている。まず前半が「ガンマン篇(筆者、勝手に命名)」。黒装束に身を包み、全裸の幼い息子(笑)と共に荒野をさすらうガンマン<エル・トポ(スペイン語で「もぐら」の意)>。偶然、虐殺された村を通りがかった彼は、その凶行に及んだキ○○イ山賊組織を潰したものの、あっさりボスの情婦とねんごろになり息子を捨てて旅に出る(苦笑)。女のわがままから各地にいる4人の凄腕ガンマンと<決闘>する破目となった彼は、時に卑怯な手を使いながらも1人、また1人と倒していく・・・。
 そして後半が「復活篇(またまた勝手に命名)」。ある「経緯」を経て(ここはご自分の目で映画を見てね)<復活>した彼は(何故か修道士姿)、助けて貰った洞窟に住む人々の為に「町へ通じるトンネル」を掘る事を宣言する。で、ダイナマイトを買うお金を貯めるため「大道芸」を始めるのだが(笑:でもホント)やがて<思わぬ結末>が待ち受けている事をこの時には知る由もなかった・・・。


 主人公のいでたちと登場のインパクトは「続 荒野の用心棒」のジャンゴそっくり!「西部劇」仕立てでありながら(セルジオ・レオーネの諸作を思わせる描写もあり。)時にフェリーニパゾリーニ的要素(=一言でいえば「変態描写」:笑)を組み込んである種の<寓話>、<神話>の領域に到達したのが本作。
映画を観る限り、監督・脚本・主演を担当したアレハンドロ・ホドロフスキーは相当「西部劇」や「ヨーロッパ映画(特にイタリア)」が好きなんだなぁ・・・と思いきや、本人曰く「西部劇は好きじゃなかったし、作り方も分からなかった」、「当時、マカロニ・ウエスタンは観ていない」。さらには「神は信じない」だと(爆笑)。
 そもそも今作制作は、ホドロフスキーの監督デビュー作「ファンド&リス」のアメリカ公開時に端を発する。その扱いが余りにも酷かったので「だったらアメリカ人も見たがる西部劇を作ろう」という<アメリカへのリベンジ>がきっかけだったという。世の中、何が功を奏するのか分からない(笑)。


 映画は多くの<暴力描写(=特に前篇は「血まみれ」!>に彩られているが、ロケ地となったメキシコにはサム・ペキンパーの傑作ウエスタン「ワイルドバンチ」の特殊効果を手伝ったスタッフがいて、そこで得た<ノウハウ(特に弾着)>を投入したという。「エル・トポ」のルーツが「ワイルドバンチ」にあったとは・・・さすがのペキンパーも知らなかっただろう(苦笑)。


 後半、「修道士」となったエル・トポは金を稼ぐため「大道芸(パントマイム)」を見せて回るが、これはチリで生まれたホドロフスキーがパリに渡った頃に培ったもの(チャップリンジャック・タチもパントマイム出身)。前半の「神懸かり的なガンマン」からがらりと趣きを変える彼の役者としての<芸達者ぶり>も見所のひとつ。決して妙なだけの作品ではないのだ(笑)。


 ホドロフスキーはこののち、数々の映画を企画したものの(中には「砂の惑星」やレノン&オノ・ヨーコ主演作まで!!)結果、作られたのは「ホーリー・マウンテン」と「サンタ・サングレ 聖なる血」の2本のみ(どちらもまたまた怪作:笑)。企画中のアイデアの中にはエル・トポの続編もあるというから、その実現を首を長くして待ちますか!