季節はすっかり秋ですが、ここでイタリア製怪奇映画を(意味不明)^^。マリオ・バーヴァ監督といえばイタリアン・ホラーの超メジャー作「血塗られた墓標」(’60:バーバラ・スティールが冒頭トゲトゲの付いた仮面で処刑される場面は有名)で知られる御方ですが、今回取り上げるのは御大による「白い肌に狂う鞭」(’63:タイトルだけ読むと完全にSMの世界ですがそれだけじゃありません)。
何故こちらを選んだかといえば話は単純!後年「サイレンサー/沈黙部隊」で色っぺ〜女スパイに扮するダリア・ラヴィに、「スター・ウォーズ新3部作」のドゥークー伯爵ことクリストファー・リーが出演してるから!分かりやすいでしょ(笑)!
海沿いの古城。そこへ勘当されて城を出た問題児クルト(勿論、リー大先生)が突然帰ってきた。かつて使用人の娘をたぶらかし自殺に追いやった彼のことを一族(=父、弟、いとこや使用人たちも)は疎ましくは思うものの、城内に残ることは渋々認める。そんなある晩、クルトが何者かの手で殺害される。かつて娘が自殺した時と同じナイフで喉を突かれて!以来、クルトの義妹(=弟の嫁はん)で、以前は愛し合っていたネヴェンカ(ダリア・ラヴィ)の元に彼の霊が度々現れるようになる。そして今度は父親までナイフで殺害された・・・!
マリオ・バーヴァ(名前からしてもイタリア人)は父親も映画の撮影監督だったこともあって、自身もカメラマンとして業界のキャリアをスタート。撮影&短編ドキュメンタリーの監督を務めたのち、先述の「血塗られた墓標」で本格デビュー(これ原作はロシアの作家、ゴーゴリ)。以降、ホラー、サスペンスのみならず様々なジャンルの作品を手掛け今作に辿りつくわけ(ノークレジットながら撮影も兼任)。ちなみに65年の監督作「バンパイアの惑星」は「エイリアン」の元ネタという説もある。あくまで「説」よ(笑)!
今作の映画のポスターあるいは海外版のDVDジャケを一見すると「監督はジョン・M・オールドって書いてあるぞ!」と思われるだろうが、これ御大の<変名>。他のスタッフや俳優も一部、アメリカ人名に変えられている(→セルジオ・レオーネ同様、かつてのイタリア映画界がよく使った手)。劇中、何度かクルト(=S)によるネヴェンカ(=M)の<鞭うち倒錯シーン>が登場するのだが(=でも鞭はひょろい縄で、どうみてもそんなに痛くなさそう)これが問題になった場合を想定して偽クレジットにしたらしい(苦笑:そんなにビビるなら作らなくてもよさそうだが。でも公開したらやっぱり問題になったんでスタッフ、キャスト一同安堵したことだろう)。
恐怖に顔を歪ませる人物への流麗な移動ショットを筆頭に、市川崑的ライティング(=人物の顔半分、影にする)+いわゆる「ヒッチコック・シャドウ」あり。そして赤・青・緑と色彩が変化してゆく幽霊リーの姿など原色をうまく配した映像は美しくも恐怖度満点!加えて奏でられる華麗にして恐ろしい劇伴(音楽担当は「ブーベの恋人」やピエトロ・ジェルミの「鉄道員」、「刑事」等で知られる名作曲家カルロ・ルスティケッリ。今作ではジム・マーフィの変名を使用)・・・この「いかにも」っていう感じがたまらんなぁ^^!
クリストファー・リーは、そもそも英・ハマープロによる一連の「ドラキュラ映画」で一世風靡した御仁。今作も彼のファンだったバーヴァに請われて出演したそうだ(→ティム・バートンもリーのファンだったことから近年、毎回監督作に彼を起用している)。当然、今作も<黒装束のマント姿>・・・まんまドラキュラじゃん!で昼夜問わず鞭でおねーちゃんをシバくと(笑)。ドゥークー伯爵や「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズから彼を知った人でも「この人は昔から悪役だったんだな〜」とお分かり頂けるかと思う(ちなみにイタリアの本格ホラー映画第1号はリカルド・フレーダ監督による1957年の「吸血鬼」といわれている。トリビアとして覚えてね♪)^^
そして「M女」役のダリア・ラヴィ。当初、バーヴァはネヴェンカ役に先のバーバラ・スティールを考えていたそうだが、本人が怪奇映画役者のイメージがつくことを怖れて出演依頼を断ったという。だが後年、後のオスカー監督、ジョナサン・デミのデビュー作「女刑務所/白昼の暴動」(’74)とかの<女囚映画>にも出演してるから、この時の判断は良かったんだか悪かったんだか(笑)。
一方、役が回ってきたダリア・ラヴィは死んだ筈の男の霊に恐怖するヒロイン(でも鞭でシバかれると恍惚の表情を浮かべるドM)を好演^^。この演技が認められて(?)ハリウッドでも「サイレンサー〜」や「007/カジノ・ロワイヤル」(’67:バカ映画の方よ)他に出演。コアな映画オタク達の記憶にだけ、その名を永遠に刻印した(大袈裟:笑)。
ベースは<海沿いの古城を舞台にした幽霊譚>でありながら男女の愛憎&倒錯(SM)、秘密の抜け穴に連続殺人・・・って、これ日本に置き換えたら完全に横溝正史の世界!!映画の後半も半分犯人探しにシフトするので(→弟が素人探偵に)これで金田一耕助が出てきたら、「1粒で2度美味しい映画」としてもっとメジャーになったような気がしないでもない(嘘です)^^。真相は・・・作品が<古典>だけに、そこそこ映画観てる人なら、多分途中で分かるだろう。
最近のホラー映画ではすっかり失われた(=映像的にも音響的にも)ゴージャス感が今作にはある。真の恐怖は、急に殺人鬼が画面に出てきてビックリすることではない。映画を彩る全ての要素が相まって醸し出されるムードがなにより大事なことを今作は教えてくれる。若いホラー映像作家は要チェックのこと!