其の332:韓流実録犯罪映画「チェイサー」

 先日、映画マニアの間で評判の韓流映画「チェイサー」(’08)を観賞。ポン・ジュノによる「殺人の追憶」(’03)の素晴らしさがわかる人&犯罪研究に興味のある人には大々々御薦めです(わからん人は見なくてもよろし)!!今作は「殺人〜」同様、2003年9月から翌年7月にかけてソウル市内で発生した連続殺人事件を基に作られた<超重量級実録犯罪もの>。出演者も監督も日本的にはいまいち馴染みのない人たちばかりですが、これを観逃すことは<今年の重要な1本>をみすみす観なかったことに値する!またまたネタばれしないように書きますわ(最近、新作ばかり書いてるね)^^


 元刑事で現在はデリヘル経営のジュンホ(=「美しき野獣」のキム・ユンソク)は、店のおねえさん方が相次いで失踪している事に頭を痛めていた。多額の手付金を持ち逃げされたと思った彼は独自に捜査を開始!その結果、ある携帯電話の持ち主が浮かび上がる。ふと思い出すジュンホ。ついさきほど、風邪気味のシングルマザー・ミジン(=「連理の枝」のソ・ヨンヒ)をその番号の客の所へ行くよう無理矢理説得したばかりだ!そこで彼は急いでミジンの携帯電話に連絡、客の家に入ったら住所を覚えてすぐにメールで知らせるよう指示をする。ところがなかなかメールはこないし、ミジンの携帯も不通・・・。客の名はヨンミン(=新作映画「ノーボーイズ・ノークライ」で妻夫木聡とW主演するハ・ジョンウ)。ひょんなことから偶然出会ったヨンミンが女性の失踪に関与している人物である事が分かったジュンホは必死に彼の後を追いかける!女たちをどこの店に売った!?この時ジュンホはまだヨンミンの正体を知らずにいた。彼はデリヘル嬢を次々と監禁しては殺す連続殺人鬼だったのだ・・・!!

 上記に書いたように今作はミステリー、サスペンスの形式に当てはめるならば「倒叙もの」になるだろう。「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」でご存知のように観客側には犯人&犯行の様子が提示され、それを主人公が「いかに暴いていくか」が物語の主軸となる。と書いたものの、実話ベースだけに流石にそれほどシンプルな構成ではない。ジュンホにボコボコにされ、警察に逮捕された彼が取り調べの過程で自ら<大量殺人>を告白するものの(ジュンホはすぐにはそれを信じない)死体の隠し場所については口を割らないので主人公も警察も右往左往してしまう(証拠がないから)。米映画「セブン」の犯人は、終盤自ら出頭して犯行を告白するが、これにはものすごい理由があるからでヨンミンの言動にはそれほど深い意図はないのでご注意!彼の場合は「警察は証拠(=死体)を探し出せずに自分は釈放される」ことを確信しているので言ったまでのこと(嫌な奴)。
 ちなみに「殺人の追憶」では、その昔、韓国警察が容疑者を拷問して自白を強要する、証拠をでっち上げるなど酷い捜査をしていた過程が描かれていたが、さすがに後年問題となったようで(当たり前だ)現在では拷問や証拠の捏造は固く禁止されているそうな(といいつつ、警察のトップは「でっち上げてでも証拠を見つけろ」と檄を飛ばす。こらこら)。

 今作の素晴らしいところは幾つもあるが、各キャラクターの造形の妙が筆者はなにより気にいった。ジュンホは職内がバレて(どうやら以前から風俗絡みの副業をしていたと思われる台詞がある。あちらの警察も給料安いのか?)クビになった元刑事のデリヘル経営者(韓国にもデリヘルあるんだね)・・・ということ以外、彼の背景はなにも説明されない(家族に連絡する場面もないので、おそらく独身だろう)。で、物語の前半、あくまでヨンミンを探し追う理由は「彼が女を売り飛ばした証拠を掴み、金を取り戻す」ため!自分のことしか考えてないダーティな男(笑)。
 連続殺人犯ヨンミンは先ほど書いたように「セブン」の犯人のような言動を取る大胆さもありつつ、犯行に緻密さはないし(苦笑)おまけにクリスチャン・・・で犯行の理由が●●●(注:実際の犯人の理由は特になかったそうだ)。人間らしいといえば人間らしいし、悪魔的キャラにいまいちなりきれてないところがリアルといえばリアル。シングルマザーのミジン(=大変な目に遭うが、物語の終盤、彼女の身に予想を越えた展開が待っている!!)は経営者のジュンホを影で「ゴミ」呼ばわり(爆笑)!!警察があくまで無能な集団なのも気にいったわ^^

 監督・脚本は今作で長編劇映画デビューを果たした新鋭ナ・ホンジン(1974年生。若い!)。元になった連続殺人事件(ちなみに実際の犯人の名前はユ・ヨンチョル。さあ、自分で調べてみよう^^)解決直後、知り合いの刑事と一緒に飲んで詳しい話を聞けたことがきっかけとなり、延々リサーチをしながら脚本を書いたという(最終稿はなんと17稿)。さすがに事件まんまを再現するとグロ過ぎるので、調べたことを映画に反映させたのは約半分ぐらいだそうだが・・・これでも十分グロい(苦笑)。「カル」といい、韓国人は「血」と「ゲロ」の描写はかなりストレートに描く傾向があると見た^^。

 またタイトルが「チェイサー」だけに走るシーンが多い!多い!しかもナイト(夜間)シーンが多く、時にはピンボケした部分もまんま使ってるので、すげー迫力!主人公のバトルシーンも多いので、<クライム・サスペンス>のみならず、ある種の<アクション映画>としても観ることが出来る。
 なんでもホンジンはカメラマンに「俳優がどのコースを、どう走るか」わざと伝えなかったそうでーそうした現場での<緊張感>がフィルム全編にみなぎっている。おまけに低予算ということもあって、撮影スケジュールの都合上、時には36時間・・・クライマックスではなんと72時間ぶっ続けでロケしたという(驚)!!これ日本のスタッフだったら・・・確実にキレられるだろうな(笑)。ユニオンが強いハリウッドではしたくてもできない荒技。プロデューサーは次回、有能な彼に予算とスケジュールをたっぷり与えてあげましょうね^^長年かけて今作を仕上げた若きナ・ホンジン監督にエールを送る次第(本国じゃ大ヒットしたそうで良かった良かった^^)。ただ実在する街名を舞台にしたものだから、映画の影響で地価が下落して住民が激怒したオマケ付きだけど(苦笑)。
 
 なんでもディカプリオがリメイク権をゲットしたそうだが(アジア映画マニアかいな)・・・もし彼が自ら出演するなら犯人役を担当するように!主人公はやっぱり生活に追われて、少々疲れた感じがないと絶対にダメ!その点をいまから危惧する筆者なのであった。

 
 <どうでもいい追記>あの「宇宙戦艦ヤマト」の新作(サブタイトルは「復活篇」!)が今冬公開されるそうで(笑)。「スター・ウォーズ」といい、この年になってヤマトの新作のニュースを耳にするとは思わなかった。古代くんが「38歳」で、妻・雪(旧姓:森)が死んでるって・・・「完結篇」の後に一体なにがあったんや??