其の300:壮大な前フリ「レッドクリフ Part1」

 3年以上かかって、ようやく300回に到達しました。紹介した映画は優に300本を越えましたが・・・まだまだ山の麓ですな。頂上には遥か程遠い(苦笑:映画は本当に深イイ〜)。筆者が飽きるか死ぬかするまでは更新を続けたいと思うので、今後もどうぞ宜しくお願い致します^^
 さて、その300回目に紹介するのは・・・巨匠ジョン・ウーが「三国志」を描いた超大作「レッドクリフ赤壁)Part1」!!・・・と自信を持って書きたいところなのですが、正直言って出来は「普通」だった(苦笑)。
 「だったら書くなよ!」と言われそうですが、2部作であれば肝心の戦い途中(実際には前だったけど)で終わることは想定内だし、後半と併せて1本と評価するべきだろうと思うので(=欧米では「三国志」わかんないから1本に再編集して公開するらしい)あくまで「Part2」の出来に期待して(=公開は来年4月!)ここに更新する次第。今作は「序章」あるいは「壮大な前フリ」というべき位置づけです。
 「三国志」を全く知らない人でも映画冒頭に日本オリジナルと思しき分かりやすい解説(しかも漢字にルビつき)があるご安心ください^^。ちなみに映画は「魏」「呉」「蜀」の三国になる前の話(=三国になるのは西暦220年)なので、その点はご注意!


 中国がまだ「漢」と呼ばれていた時代(=「漢字」の漢よ)。この時、国は群雄割拠、戦乱に明け暮れていた・・・。そんな建安13年(西暦208年)。華北(=長江を境に考えると、その上の方と考えて頂ければよろし)に一大勢力を築いた曹操孟徳(=姓「そう」、名「そう」。字は「もうとく」)は既に権力のない皇帝をバックに、残る抵抗勢力劉備玄徳(「りゅうび・げんとく」)と「呉」の国の孫権仲謀(「そんけん・ちゅうぼう」)を<逆賊>として討伐するよう勅命を受ける。曹操との戦いに敗れた劉備は軍師・諸葛亮孔明(「しょかつりょう・こうめい」)から呉の孫権と手を組んで戦うよう進言される。呉に渡った孔明孫権及びその右腕・周瑜公謹(「しゅうゆ・こうきん」)を説得。曹操の野望を阻止するために立ち上がる。大義名分を得て陸そして長江から進軍してきた曹操軍(80万人!)と劉備孫権連合軍(5万人)の壮絶な戦いの火蓋がここに切って落とされたー!!


 詳しいことは専門書を読んで頂きたいのだが、「三国志」の事をごくごく簡単に書くとーこの時代を記した「正史」という記録書と、のちに面白おかしく脚色された「三国志演義」という本があり(史実7割、脚色3割といわれている)、日本では吉川英治の小説や横山光輝の漫画はこの「〜演義(=劉備が<善>で曹操が<悪>)」を基に書かれたもの。今作も「〜演義」を脚色している。
 通常「三国志」は皇帝の流れを汲むものの貧しい暮らしをしている青年・劉備関羽張飛の3人と「義兄弟」の契りを結んで(=「桃園の誓い」:でもこれはフィクション)「黄巾の乱」の討伐に乗り出すところからスタートするんだけど・・・そこまで映画でやってたら延々終わらないので(笑)映画はある程度時代が進んだ西暦208年の「長坂(ちょうはん)の戦い」から始まる。
 勿論、劉備らが決起した西暦184年から208年の間には劉備曹操も一時共闘したりと色々あるわけで、多少の予備知識はあった方がいいでしょう。劉備孔明を軍師として招く「三顧の礼」はこの前年のことだ。


 大勢の英雄・豪傑が登場する「三国志」に心ときめかせたのが少年時代のジョン・ウー(=毛沢東が愛読したことも有名)。ハリウッドから凱旋帰国し、長年の夢であった「三国志」の映画化にとりかかった彼が選んだのは一番派手な見せ場(=無論「赤壁の戦い」。でも当時「赤壁」はある山の名前で、戦った場所の地名ではなかったらしい)のある西暦208年のエピソードだった。そのため、彼は「三国志」を再構築しつつ(3人のライターと共に脚本も執筆。完成するまで12、3回書き直したとか)、巨大な戦場を再現することに意欲を燃やす。

 
 大量の資料を集めつつ(=日本の専門家にも相談)中国各地をロケハンして回り、当時の城や戦艦そのほかを実物大で復元。いや〜、さすが予算100億円(笑:追加撮影するためウーは10億もの私財を投じたらしいが、いま日本でも初登場第1位なので回収できるんじゃないですかね)!また中国政府に協力を依頼、こうして提供された人民解放軍1000人と馬200頭にハリウッドで学んだCGも駆使してー冒頭にある趙雲子竜が劉備の子、阿斗を救った事でも有名な「長坂の戦い(長坂坡の戦い、とも)」、そしてクライマックスの「九官八卦(きゅうかんはっけ)の陣」による曹操騎馬軍との戦いを描いた(撮影中、繰り返し「七人の侍」を観て勉強したそうな)。実際に孔明がこの陣で戦ったのは劉備の死後、幾度か行われた「北伐」と呼ばれる戦いの中であって、この時ではないんだけどね(笑)。


 「超有名作」にして「歴史大作」に挑んだジョン・ウーだが、彼のテイストは今作でも健在!「2丁拳銃」がない分、後半「2丁刀」はあるし、鳩も今回は重要な役で出演(笑)。さらにキャラクターたちには最新の研究結果をふんだんに取り入れた。その結果、金城武扮する孔明トニー・レオン演じる周瑜に重きを置く事となった(=当初はチョウ・ユンファがキャスティングされていた)。
 これまで語られてきた周瑜という人物は劉備を罠にはめようと画策するものの、孔明に見抜かれたりして「天はこの周瑜を生まれさせながら、なぜ孔明まで生まれさせたのだ」と叫んで失意の内に死んじゃう人なんだけど(笑)実際には美男子&人格者(で絶対音感の持ち主)だったそうで、周瑜に思い入れのあるジョン・ウーは彼と孔明を互いの才能を認め合うマブダチとした。この辺りも繰り返し「男の友情と仁義」を描いてきたウーらしい脚色。
 このほか実際の曹操はブサイク(=曹操を主人公にした漫画「蒼天航路」とイメージ違いすぎ)なわりに、人妻好みの好色家だったそうで、今作でも進軍の理由が「皇帝の座」プラス「周瑜の美貌の妻狙い」になってる。そんなんで戦わされる兵士の気持ちって一体・・・(笑)。


 原作を知ってると多々つっこみや違和感(なぜ中村獅童の役はオリジナルキャラなんだろう?)はあるものの、これまでに作られた実写の「三国志」の中では抜群の出来だし(大昔、日テレで特番として放送されたアニメは面白かった)、飽きずに観られる145分なのではありますが・・・感想は「普通」。そこで理由を考えてみたらー「長江を進む無数の軍艦」はブラッド・ピットの「トロイ」で既に似たようなシーンを観てるし、最後の陸戦もちょっと「300」入ってる(笑)。要は劇中で描かれる「スペクタクル場面」の数々が観客の目では<すでに他で見た場面>が多いので、正直<サプライズ>が・・・足りないんだよね〜(残念)!
 そこで次の赤壁大戦では無数の軍艦の大炎上に加えて、例えば関羽張飛が100人ぐらいの敵兵を一気に斬りまくって無数の首や手足がボンボンとんでいくとか(=本宮ひろ志の「天地を喰らう」状態)、ストーリーに加えて観客が「すげー!!」と唸る<大バトル・ジェノサイドシーン>がある事を期待する!!!
 ・・・もしかして、そういうの期待するの筆者だけ??