其の268:刑務所の恐怖「ミッドナイト・エクスプレス」

 先日、ファンタジー映画「スパイダーウィックの謎」を観ましたが(ふふふ、筆者は何でも観るのだよ)これがなかなかの佳作^^。妖精たち(いいもんから悪者まで)の生態を書いたスパイダーウィックさんの本を巡って(=どうやって調べた書いたのかが最大の謎)、その子孫たちが一大バトルを展開する活劇でもある(ちと「ネバー・エンディング・ストーリー」入ってる)。この作品のいいところは細かい世界観の説明とかなしにして、すぐバトルに入るのがタイトでグー(おまけに醜悪な妖精ゴブリンほかクリーチャーを担当したのはフィル・ティペット大先生のスタジオ)!
 にしても主演で1人2役演じてるフレディ・ハイモア君はすっかりこのジャンル専門となってしまったようだが・・・いいんだか悪いんだか(苦笑)。


 本題。大分前に予告した(覚えてる?)デビッド・パットナム大プロデューサーの社会派実録ドラマ「ミッドナイト・エクスプレス」(’78)をご紹介!これ観ると「ホステル」同様、海外で調子こくと大変な事になるのが良く分かるよ。

 
 1970年、トルコのイスタンブール空港。アメリカ人旅行者ビリー・ヘイズ(ブラッド・デイビス)は麻薬(=ハシシ)不法所持の現行犯で逮捕される。ニクソン政権下のアメリカとトルコの関係は最悪で、祖国からの支援もないまま彼は4年の実刑に。収容先の刑務所内で彼は長年投獄されているアメリカ人のジミー(ランディ・クエイド)とマックス(「エレファントマン」のジョン・ハート)と知り合う。だが、ここは暴力が横行、人間以下の扱いを受ける場所だった・・・。3年半が過ぎ、残りあと数十日で釈放される矢先、ビリーの裁判はやり直され30年の懲役刑に!ビリーは遂に自由を求めて、国外逃亡を決意するのだが・・・。


 ビリー・ヘイズとウィリアム・ホッファーによる著書を元に脚本家時代のオリバー・ストーン(略してオリバーくん。70年代に一世を風靡した生き物ではない)が脚色(=今作でアカデミー賞受賞)。異国で極限状況に置かれた若者に焦点を絞った事が良かったと思う。ちなみに映画で主人公はずーっと同じ刑務所にいるが、実際には数ヶ所の刑務所を転々としたそうだ。いくら「実話」でも、これぐらいのアレンジは許容範囲内のつきものという事で^^さらに書き加えるならばタイトル(直訳すると「深夜特急」)は囚人同士の隠語で「脱獄」を意味する語(=劇中より)。


 監督はアラン・パーカー。このお方、「ミシシッピー・バーニング」ほか良質の社会派作品を作る事で定評がある(彼もパットナムのお眼鏡にかなった監督のひとり^^)。パーカーは「人間の尊厳」、「自由への渇望」というシンプルにして重要かつ明快なテーマを正攻法で演出した。今作は彼の代表作のひとつと言っても差し支えないだろう。オリバーくんの脚本にあったようだから仕方ないと思うが、トルコ人の描写ー特に所長と刑務所内の「調達屋」はーサディストにして性悪な人物として描かれている(=この一元的な視点で批判もされた)。


 ビリーに扮したブラッド・デイビスは凄まじいほどの熱演!イケメンなのに物語の進行に併せて肉体的にも精神的にも病んでいってることが一目でわかるほど。中でも印象的なのは中盤、裁判で30年の懲役が決まってトルコ人検事に悪態をつく場面(元はと言えば麻薬をアメリカに持ち帰ろうとした彼が悪いんだけど)や彼女がビリーを訪ねた際、「服を脱いでくれ」と涙ながらに訴え、その裸を見て泣きながら自慰を行うところ。文字だけで読むと爆笑場面かと思うかもしれないが・・・それまでの彼の様子を見ているだけに全く笑えない。パーカーの演出に応えたブラッドの渾身の演技が観客の胸をうつ。そんな彼も今作からしばらくして若くして他界してしまった。つくづく残念である。


 音楽を担当したのは後に「フラッシュダンス」を手掛けるジョルジオ・モロダー。元々は音楽プロデューサーだが、パーカーたっての希望で今作に起用された。得意のシンセサイザーサウンド(当時はこれが新しかったのよ)によって今作でアカデミー作曲賞に輝いている。そんな彼が何故フリッツ・ラングの古典SF映画「メトロポリス」に彩色&音楽までつけて公開したのかは・・・今でもよく分からん(笑)。


 ハリウッドではいまでも時々、是か非は別としてアメリカ人が海外(タイとか中国とか)で逮捕されて酷い目に遭う映画を製作しているが、我が日本の映画では・・・筆者は観た事も聞いた記憶もない。実際、外国で逮捕された邦人もいるわけだし(買春とかAV撮影で)、大勢海外旅行に出かける時代でもあるのだから、このテの類いの作品が作られてもいいと思うのだが・・・やっても「商売」にならんのかなぁ?!すっげー疑問・・・。