其の255:実話のマジ映画×2!

 昨夜、TVで「それでもボクはやってない」を観ましたが・・・いや〜、日本の裁判は恐ろしいね!これ観ると男は下手に電車に乗れない(苦笑)。取り締まりでカツ丼食べるとかベタな演出もなく、表現はひたすらリアル(って逮捕された事ないけど)。長期間取材した周防正行監督のお手柄です^^細かなセリフの中に様々な薀蓄が盛り込まれていて、ちょっと伊丹十三作品を思わせたけど、こういう「社会派作品」は「難病もの」が幅を利かせている邦画にあって大変重要だと改めて認識しましたわ。


 で、今回の「本題」!ようやく念願の社会派映画を(笑)。最近、ローランド・ジョフィ監督の名もあまり聞きませんなぁ。昨年、「キャプティビティ」という「24」のエリシャ・カスバートが拷問される映画を演出してますが話題にならなかった(苦笑)。「ホステル2」じゃあるまいし、彼が撮らんでもいい題材。初期の作品はなかなか良かったのだが。

 
 彼の初監督作品は「キリング・フィールド」(’84)。カンボジア内戦を取材した「ニューヨーク・タイムズ」記者の体験を描いた実録もの。ポル・ポト率いるクメール・ルージュによって引き裂かれる男2人(アメリカ人とカンボジア人)の友情ものとも言え換えられる。
 「カンボジア内戦」とか「ポル・ポト派」等、社会的・歴史的背景については各自調べて欲しい。映画の中には「ポップコーン・ムービー」と呼ばれる観てればアホでも楽しめるものもあれば、多少の知識を必要とする映画もあるのだ。これ以上、日本人の無知・無学・白痴化を防ぐ為にも物語の詳細は割愛する。


 なによりジョフィが凄いのはーこんな大作が初監督だと言うこと!映画の中には欧米人(主演のサム・ウォーターストンはメジャーじゃないけど、ジョン・マルコヴィッチジュリアン・サンズも出てる)はもとよりアジア人(ハイン・S・ニュールは本当のカンボジア人)も多数登場するし(勿論、大勢のエキストラも)、戦闘シーンも多い。この規模の作品をさばいた手腕は大したものだ(ジョフィは舞台演出家を経てTVドラマを手掛けてた)。

 
 今作でカンボジア人ジャーナリストを演じたハイン・S・ニュールはアカデミー助演男優賞を獲得(ほか撮影賞・編集賞も)。この人、映画の後半にはクメール・ルージュの手を逃れ安全地帯まで決死の逃避行を試みるのだが(=ポスターになってる有名な沢山の骸骨はその道中出てくる場面)なんと彼は実際にクメール・ルージュ支配下で4年間強制労働に就かされた人物!「映画と実際は全然違います。本当にその通りに再現したら余りに残酷過ぎて誰も映画を観ないでしょう。」とは映画完成当初の彼の発言。その彼も後年、アメリカ国内で強盗に遭い殺されてしまった。彼の人生を思うと・・・余りに悲しい最期だ。


 続くジョフィの監督第2作が「ミッション」(’86)。でかい滝に十字架に磔にされた人が落ちてゆくポスターが有名なアレよ(笑)。1750年代、スペイン植民地下の南米(現在のパラグアイ付近)を舞台に先住民にキリスト教を布教するイエズス会宣教師の姿を描くまたまた実話の映画化(とは言っても長い歴史上の出来事をコンパクトにまとめて脚色してるので、映画をそのまんま信じると歴史のテストは赤点)。主演はジェレミー・アイアンズロバート・デ・ニーロ(ブレイク遥か前のリーアム・ニーソンも出演)!そして音楽はエンニオ・モリコーネ御大!!


 この作品もその昔、南米に欧州列強がこぞって進出・支配し、新たな行動規範を強制する(=キリスト教の布教。現地人にとっては余計なお世話でしかない)時代背景があるので、それは勉強して欲しい。今作でジョフィは物語の核となるグァラニー族を描くにあたって「エキストラじゃダメ」とわざわざコロンビアまで足を運んで、そのテの部族の方々に出演を申し込みに行ったというのだから恐れ入る。ロケも・・・映像観ただけでスタッフの苦労が偲ばれる。あんなところに出向いて(=ビジュアル的には申し分ないけど)機材運んで撮影するのは大変だったろうなぁ(もう完全にスタッフ目線:苦笑)。カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)、アカデミーで撮影賞も獲得したので良かった良かった^^


 この初期2作で共通しているのは「実話の映画化」と「2部構成(「キリング〜」では男2人が引き裂かれるまでが前半、後半はカンボジア人の逃避行。「ミッション」ではデ・ニーロが宣教師になるまでが前半で、部族の村を守るため軍隊と戦うのが後半)」、そして異民族を交えて「個」と「公」を描くこと(小林よしのりの「ゴーマニズム宣言」的表現:笑)。奇をてらわず丁寧に演出してるのでヘビーな題材でありながら映画として見やすいのがジョフィ演出と言ってもいいだろう。真摯に作品に向き合っているので余計に「人間の愚かさ」が浮き彫りにされてゆく。


 「ミッション」を頂点として以後、ジョフィは「シャドー・メーカーズ」や「スカーレット・レター」とか作品は発表するものの・・・ずるずると下降線を辿ってゆく。「地獄の黙示録」後のフランシス・フォード・コッポラや「伝説巨神イデオン 発動篇」後の富野由悠季と同じパターン(苦笑)。スピルバーグは別として、大抵のクリエイターは頂点を極めると、そういうパターンに陥りやすいものなのかも知れない(本人がこれ読んだら怒られそうだな)。


 <追記>ちなみに両作ともプロデューサーはデヴィッド・パットナム。近々この方がプロデュースした別作品を更新予定なので乙う御期待!何が取り上げられるかアナタの予想が当たりますかどうか?