其の262:市川崑×石坂浩二「金田一」シリーズ①

 今春より職場が変わってハードワークな毎日になりましたが(苦笑)ようやく金田一耕助映画について書く準備が出来ました^^先日、亡くなられた市川崑監督の手掛けた「金田一耕助」映画を再見するたび(子供の頃からTV含めて何度も観てるけど)余りの巧さに唸ってしまう。そこで何回かに分けて市川崑石坂浩二コンビによる金田一シリーズを裏話や薀蓄を織り交ぜながらお送りします。
 ちなみに以前、シリーズ第1作の「犬神家の一族」については既に執筆済なので今回は除外(=バックナンバー読んでね)。また市川監督ながら豊川悦司金田一を演じた「八つ墓村」(’96)も除外!やっぱり石坂浩二じゃないとね〜(「ビートルズ派」と「ローリング・ストーンズ派」が存在するように、金田一役者にも「石坂派」と「古谷一行派」がいるが筆者は石坂派)♪

 
 「犬神家の一族」(’76)が大ヒットした時、ミステリーマニアだった市川崑は十分満足していた。そこへ東宝(注:「犬神〜」は製作が角川春樹事務所で、東宝は配給しただけ)から「是非、次の作品を!」と依頼&半ば強制で着手したのが「悪魔の手毬唄」(’77)である。「シリーズ最高傑作」の呼び声も高いのだが・・・これ、制作期間は僅かに半年(驚)!市川、恐るべし!!


 昭和27年、岡山県・鬼首村(「おにこべむら」)。金田一は以前、共に事件を解決した磯川警部(若山富三郎)から呼び出しを受け、この地を訪れる。彼らの逗留先である温泉宿「亀の湯」の女主人・青池リカ(岸惠子)は磯川の旧知。ふたりは20年前に彼女の夫・源治郎が殺害された事件の際に知り合った仲であり、金田一はその迷宮入り事件の真相解明のために呼び出されたのだ。困惑する金田一(苦笑)。
 村は「枡屋(ますや)」の由良家と「秤屋(はかりや)」の仁礼家が牛耳っているが由良家は戦前、詐欺師・恩田幾三に騙され、以前の勢いを失くしていた。金田一は「お庄屋」こと多々羅放庵(中村伸郎)と知り合い、かつての妻「おりん」と復縁するための手紙の代筆を頼まれる。その「おりん」と思しき腰の曲がった老婆が現れた頃、村の娘たちが無残な姿で次々と惨殺されてゆく。彼女たちの死体は村に伝わる「手毬唄」を再現したものだった・・・!


 「金田一映画」というと「舞台は岡山県」のイメージが強く、事実今作のほか「本陣殺人事件」も「八つ墓村」も「獄門島」も舞台は「岡山県」(そのおかげで筆者は子供の頃、岡山は怖い所だと思っていた:笑)!これは金田一の後援者のひとり(=久保銀造という人)が岡山にいるという原作の設定に起因している(=原作者の横溝正史は戦時中、岡山に疎開していた)。勿論、他の作品では「東京」や「関東近郊」が舞台の事件も多いので念のため。
 市川監督は金田一に初めて原作通りの衣装を着せた多大な功績がある代わりに、彼を「神や天使のような存在」と位置付けた為、上記のほか原作にある「有名な名探偵」、「一時期、東京に探偵事務所を開いていた」等の設定をカットした。そのため加藤武扮する警部(名前は橘や等々力など微妙に変化)が毎回、彼を胡散臭そうに見るお約束が出来た(笑)。勿論、原作には「よ〜し、わかった!」というセリフは出てこない(爆笑)。


 原作では「昭和30年、夏」での事件だが、映画では昭和27年の秋(=撮影スケジュールの関係)。だが、今作においては晩秋の「さびれた感」が映画にただならぬムードを醸しだしている。筆者が村人なら即座に引っ越すね(笑)!ところがロケ地は山梨県甲府。あの怪しげな沼は神奈川県の津久井湖周辺、SLは静岡の大井川鉄道。中でも最初に犠牲になる娘(水飲みながら死んでるアレよ)の「滝つぼ」の<より>は・・・なんとセット!今回、DVDの特典みて初めて知った。本当に映画とは凄いことが出来ますなぁ(何をいまさら)。


 お亡くなりになられたミステリー作家にして書評家でもある某大物が原作を論じて「見立て殺人の必然性が薄い」と言っておられましたが・・・まぁ、エグい殺人が見られるという事で、このブログでは黙殺しよう(といいつつ取り上げてるじゃん)。


 話変わって「映画」の方に。前作「犬神〜」同様、市川演出は絶好調!早いカットバックに、ハイキー処理、連続静止画、ジャンプカット・・・更に「手毬唄」ではヒッチコックばりの<影>の演出もプラスアルファ。テクニックを駆使して2時間23分の長尺を飽きさせることなく一気に観せる。勿論、前作より死体はグロい(笑)。
 また今作も言わずもがなの豪華キャスト。岸、若山のほか辰巳柳太郎大先生を筆頭に大和田獏や元「フォーリーブス北公次仁科明子、「竜二」で奥さん演ってた永島暎子の若き姿も。岡本信人は・・・いまも昔も全然変わってない(笑)。「犬神〜」に続いて草笛光子小林昭二大滝秀治も出演。筆者的には坂口良子にも出てほしかったな〜(=次の「獄門島」には出てるけど♪)。


 こうして短期間でありながら(とても信じられないハイクオリティーだ)市川の才気がほとばしる第2作目「悪魔の手毬唄」は、前作以上の好評をもって迎えられる事となる。市川自身もこれで「打ち止め」にするつもりだった(=本人談)。ところが・・・そう思っていなかったのが東宝である。かくして市川は<シリーズ最終作>という触れ込みの「獄門島」を手掛けることになるのだった・・・(以下、次回に続く^^)。