其の144:江戸川乱歩+実相寺昭雄

 先日、惜しまれつつこの世を去った<鬼才>実相寺昭雄。いまや伝説のTV番組「怪奇大作戦」や「ウルトラマン(有名なハヤタがスプーンを持つシーンは彼のアイデア)」、「ウルトラセブン」で名を上げ、映画を撮るようになってからは大作「帝都物語」や「ウルトラQ・ザ・ムービー/星の伝説」、果てはAVまで手掛けた<カルト作家>でもあった。耽美的な嗜好があった彼は生前、江戸川乱歩の小説を3度映画化している。乱歩の小説は過去に幾度も映像化されているが、個人的には実相寺監督作品がもっとも成功していると考える。
 でさらに個人的な話で恐縮だが、筆者はシャーロキアン(=シャーロック・ホームズの熱狂的ファンの意)であり、横溝正史(=金田一耕助)のファンであり、かつ明智小五郎江戸川乱歩のファンでもあるので(笑)今回は一挙3作ど〜んとご紹介!!


 実相寺による第1作は「屋根裏の散歩者」(’94)。タイトルの<屋根裏を徘徊する男(=のぞき男)>は三上博史。名探偵・明智小五郎にはー通常「土曜ワイド劇場」の天知茂など<インテリ風>の俳優が演じる事が多いー先述した「帝都物語」の怪人・加藤保憲役で知られる嶋田久作という斬新なキャスティング!
 実相寺は構図や照明に凝りまくる<映像派>としても知られるが、その彼の資質が昭和初期の雰囲気と日本家屋独特の陰湿で淫靡なムードを醸し出している。特に三上がのぞく<穴の形>にはこだわり、「オ○○コ型で」ーとわざわざ指定した程(爆笑)!


 4年後に公開された第2作「D坂の殺人事件」。これは明智小五郎が初めて登場する乱歩代表作のひとつ。これをベースに「心理試験」も加えて映画化した。
脚本は「新世紀エヴァンゲリオン」で御馴染み薩川昭夫(前作、そして続く第3作「乱歩地獄」も担当)。実相寺曰く「(自分と同じく)薩川も相当の変態」(笑)。
 今回の主演は真田広之明智役には前作に引き続き嶋田久作が扮している。今作も実相寺美学が堪能出来る傑作だが、なんといっても最大の見所は<オープニング>に他ならない。なんと昭和初期の町並を全て<紙細工>で再現・展開させているのだ!「低予算」を逆手に取って、観客を映画の世界にスムーズに引き込む見事な演出であった(こういった所に監督のセンスが出るものなのだ)。


 そして氏の<乱歩最終作>となったのが4話のオムニバス作品「乱歩地獄」(’05)。まんまのタイトルである(笑)。各回、監督が異なるが実相寺が担当したのは第2話「鏡地獄」。明智浅野忠信を迎え、これまで同様トリッキーな映像と淫靡なエロスを見せてくれる。
 専門的な話となるが、この作品はタイトル通り随所に「鏡」が登場するのだがーこの撮り方が非常に難しい!CGで消去するなら別だが、下手なアングルではカメラや照明、背後に控えるスタッフが全て「鏡」に映ってしまう(余談だがロバート・デ・ニーロメリル・ストリープ共演の「恋におちて」ではカメラマンが鏡に思いっきり映っている爆笑シーンあり)。そんな難しい状況にありながら実相寺は楽々その難題をクリアーしている・・・同じ映像業界に身を置く立場として、素直に感心する作品でもあった。


 間もなく夏目漱石の同名小説を題材にしたオムニバス映画「ユメ十夜」が公開されるが(実相寺は内1話を演出。「シルバー假面」が彼の遺作となった)ー偉大な才能を偲んで劇場に足を運びたいと思う今日この頃である。


 「うつし夜はゆめ。夜の夢こそまこと。」− 江戸川乱歩