其の143:清順美学、炸裂!「殺しの烙印」

 海外と同じく我が日本にも<異能の監督>あるいは<カルト作家>と呼ばれる映画監督が存在する。「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」の石井輝男、「グラマ島の誘惑」の川島雄三、「狂い咲きサンダーロード」の石井聰亙、「鉄男」シリーズの塚本晋也・・・。そして鈴木清順もまたその一群に入るだろう。
かの清順御大は日活の社員監督として「けんかえれじい」他の傑作を作りつつ、同時に怪作も撮られたお方(=この辺りは「網走番外地」で名を上げるもエログロ路線にも挑戦した石井輝男を彷彿させる)!一般的に代表作として知られているのは先の「けんかえれじい」や「ツィゴイネルワイゼン」辺りになるのだろうが、ここでは宍戸錠主演「殺しの烙印」(1967年・モノクロ)を紹介!日活から「わけのわからない映画を撮る監督はいらん」との理由で解雇された<いわくつきの作品>である(笑)。


 「物語」はある仕事の依頼を受けた殺し屋(=宍戸錠)が、いつしか殺し屋ナンバーの座を争う男たちの暗闘に巻き込まれていく・・・というもの(もう書き終わってしまった:笑)。


 鈴木清順(ちなみに元NHKアナウンサー鈴木健二の実兄)の演出は「清順美学」と呼ばれるが、良くいえば「大胆な画面構成や意表を突いた展開」。悪く言えば「わけわからん」(笑)。1967年当時、「殺しの烙印」を観たとしたらーそう思われるのも仕方がないかも。これは現代だからこそ通用する<早すぎた傑作>なのだ。

 まず<キャラクター造形>がぶっとんでいる!!宍戸錠が演じるのは「飯の炊ける香りが好きな殺し屋」(笑)。何かにつけ「飯を炊け!」と相手に命令する錠。米の香りを嗅いで恍惚の表情を浮かべる錠・・・(爆笑)。またヒロインの真理アンヌは前半、必ず雨のほか<水>と絡んで姿を現す。が、錠が家にいるとまたまた雨と共に彼女が現れる。なんと錠の家のシャワーを出しながら浴室に潜んでいたのだ(なんでやねん:笑)。

 
 会社から「アクションと女の裸の出る企画を!」という分かりやすい命を受け、とりかかったのが本作。脚本を担当したのは創作集団「具流八郎」。このメンバーが凄い!清順御大のほかカルト映画「荒野のダッチワイフ」の監督でもあり「ルパン三世」の脚本家としても知られる大和屋竺に、のちに監督となる曽根中生美術監督として高名な木村威夫に名脚本家・田中陽造。そして岡田裕、榛谷秦明の7人に+ゲストの計8人(=「グループ8人」をモジって「具流八郎」)。
この個性的なメンバーが激しく討論しながら<各パート毎>のシナリオを執筆。それを御大が全体を統一すべくまとめていく方法が取られた。彼らの記念すべき<第1作>が今作だったわけだが、映画がコケたため<具流八郎名義>の作品がこれ1本で終わってしまったのは残念至極である。


 勿論、この<ハード・ボイルド>タッチの脚本を受けて「清順美学」が全開!錠の心象風景として合成されるチャチなアニメーション(!?)のほか、螺旋階段でのセックス(画がつながってない:笑)、洗面所にいるターゲットを階下から水道管を通して射殺する錠・・・などなど名(珍)場面が続出!これを凄いとみるか、唖然とするかは・・・観た者の資質によるだろう(笑)。


 いまのところの最新作(2007年1月現在)「オペレッタ狸御殿」では国際女優チャン・ツィイーまでも引っ張りだした巨匠:鈴木清順。今後も彼の作品からは目が離せそうにない。