海外と同じく我が日本にも<異能の監督>あるいは<カルト作家>と呼ばれる映画監督が存在する。「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」の石井輝男、「グラマ島の誘惑」の川島雄三、「狂い咲きサンダーロード」の石井聰亙、「鉄男」シリーズの塚本晋也・・・。そして鈴木清順もまたその一群に入るだろう。
かの清順御大は日活の社員監督として「けんかえれじい」他の傑作を作りつつ、同時に怪作も撮られたお方(=この辺りは「網走番外地」で名を上げるもエログロ路線にも挑戦した石井輝男を彷彿させる)!一般的に代表作として知られているのは先の「けんかえれじい」や「ツィゴイネルワイゼン」辺りになるのだろうが、ここでは宍戸錠主演「殺しの烙印」(1967年・モノクロ)を紹介!日活から「わけのわからない映画を撮る監督はいらん」との理由で解雇された<いわくつきの作品>である(笑)。
「物語」はある仕事の依頼を受けた殺し屋(=宍戸錠)が、いつしか殺し屋ナンバーの座を争う男たちの暗闘に巻き込まれていく・・・というもの(もう書き終わってしまった:笑)。
鈴木清順(ちなみに元NHKアナウンサー鈴木健二の実兄)の演出は「清順美学」と呼ばれるが、良くいえば「大胆な画面構成や意表を突いた展開」。悪く言えば「わけわからん」(笑)。1967年当時、「殺しの烙印」を観たとしたらーそう思われるのも仕方がないかも。これは現代だからこそ通用する<早すぎた傑作>なのだ。
まず<キャラクター造形>がぶっとんでいる!!宍戸錠が演じるのは「飯の炊ける香りが好きな殺し屋」(笑)。何かにつけ「飯を炊け!」と相手に命令する錠。米の香りを嗅いで恍惚の表情を浮かべる錠・・・(爆笑)。またヒロインの真理アンヌは前半、必ず雨のほか<水>と絡んで姿を現す。が、錠が家にいるとまたまた雨と共に彼女が現れる。なんと錠の家のシャワーを出しながら浴室に潜んでいたのだ(なんでやねん:笑)。
会社から「アクションと女の裸の出る企画を!」という分かりやすい命を受け、とりかかったのが本作。脚本を担当したのは創作集団「具流八郎」。このメンバーが凄い!清順御大のほかカルト映画「荒野のダッチワイフ」の監督でもあり「ルパン三世」の脚本家としても知られる大和屋竺に、のちに監督となる曽根中生。美術監督として高名な木村威夫に名脚本家・田中陽造。そして岡田裕、榛谷秦明の7人に+ゲストの計8人(=「グループ8人」をモジって「具流八郎」)。
この個性的なメンバーが激しく討論しながら<各パート毎>のシナリオを執筆。それを御大が全体を統一すべくまとめていく方法が取られた。彼らの記念すべき<第1作>が今作だったわけだが、映画がコケたため<具流八郎名義>の作品がこれ1本で終わってしまったのは残念至極である。
勿論、この<ハード・ボイルド>タッチの脚本を受けて「清順美学」が全開!錠の心象風景として合成されるチャチなアニメーション(!?)のほか、螺旋階段でのセックス(画がつながってない:笑)、洗面所にいるターゲットを階下から水道管を通して射殺する錠・・・などなど名(珍)場面が続出!これを凄いとみるか、唖然とするかは・・・観た者の資質によるだろう(笑)。
いまのところの最新作(2007年1月現在)「オペレッタ狸御殿」では国際女優チャン・ツィイーまでも引っ張りだした巨匠:鈴木清順。今後も彼の作品からは目が離せそうにない。