其の117:おそるべし役者魂!「モンスター」

 一瞬、カルト映画「狩人の夜」とか台湾の「非情城市」、あるいは三隅研二の「斬る」あたりも考えたのですが・・・考えるだけで終わらせ(笑)、映画「モンスター」を! 
 1980年代に実在した<アメリカ初の女性連続殺人犯>アイリーン・ウォーノス(=2002年に死刑)の実話の映画化。浦沢直樹の同名漫画やピンクレディーの曲名ではない(笑)。「テルマ&ルイーズ」のモデルとも。

 この映画の前後に彼女のドキュメンタリーも公開されたので(獄中のインタビューもあり)実際のアイリーンの姿をご存知の方も多いと思うが、体格がよく怖い顔をされていた。その彼女に扮したのが誰であろう、かの<美人女優>シャーリーズ・セロンである!ビックリ!!プロデューサーも兼任したセロンは、今作でアカデミー主演女優賞に輝いた。


 時は1986年。長年、娼婦を続け心身共にボロボロだったアイリーンは自殺を考えた直後、孤独な少女セルビー(=クリスティーナ・リッチ)と出会い、意気投合。彼女に同性愛の手ほどきを受け、ふたりは生活を共にするようになる。
娼婦から足を洗い、堅気になろうとするアイリーンだったが学のない彼女にまともな職はない。仕方なく再び路上に立つが、客に暴行され命の危機を感じたアイリーンは彼が持っていた銃で相手を射殺してしまう!これをきっかけに生活費と逃走用の車を得るためアイリーンは客を次々と殺すようになる・・・。


 なにより見所はセロンのその変貌ぶり!役作りのために13キロ増量、特殊メイクと義歯で完璧にアイリーンになりきった。マジでそっくり!つい何度か確認してしまった(笑)。
また彼女が獄中書いた書簡に目を通し、内面の理解に努めたという。セロンに「女デ・ニーロ」の称号をさし上げよう。


 映画でもナレーションや台詞でアイリーンの生涯の一端が紹介されるが、本当の彼女の生い立ちは映画以上に悲惨そのもの(興味のある方は、その手の本やサイトでお調べください)!同情の余地は多いにあるし、手を差し伸べる人間が誰かいれば彼女の人生も違ったものになったとは思うがーかと言って「人殺し」が許されるものでは断じてない。
 映画は86年(この時、アイリーン30歳)に始まり、セルビー(=実際の人とは名前を変えてある)と出会ってから割合パッパと「殺人行脚」に移行するのだが、実際の第1の殺人を起こすのは1989年のことである。
1991年に逮捕され、翌92年、7つの殺人容疑で6つの死刑判決。2002年に薬物注射によって死刑が執行された(享年46)。


 物語の終盤、セルビーとの別れを前にアイリーンが泣きながら想いを吐露するシーンがなにより印象的。ネタバレになるので詳細は避けるが・・・胸にズシリと迫ってくる。
社会の厳しさ、人間の持つ厭らしさ・・・この世の<裏側にある猥雑でおぞましいもの>が彼女の半生を通して見えてくる。
「人間」という<不完全な動物>がいかなるものか・・・深く考えさせられる1作である。