其の89:日本映画の金字塔!「七人の侍」

 ・・・申し訳ありません。超ウルトラ・メジャー作です。世界に誇る日本の巨匠・黒澤明の代表作です。ここで取り上げる類の作品ではありませんが「本当に面白い映画」の1本だと思います。筆者はこの作品をビデオ等ではなく、スクリーンで観られた事に感謝しています(勿論、リバイバルですが)。
撮影に約1年。製作費はいまの額に換算すると数十億円ー!もはや日本では二度と作ることができない<スーパー・スケール>である事と、「純愛」&「お涙頂戴」&「懐古趣味」&「漫画の実写化」ばかりの近年の邦画に喝を入れるべく、ここに挙げた次第!

 詳細な物語の説明は、もはや不要だろう。天才・黒澤が持てる力を存分に発揮、それを受けて名優たち(三船敏郎志村喬千秋実ほか)が最高の演技を披露している。ユル・ブリンナーがこの作品を観て感激し、リメイク権を購入して製作したのが「荒野の七人」である事は余りにも有名!また、ジョン・ミリアスが自作に「七人の侍」の演出の一部を取り入れるなど、世界的に与えた影響ははかり知れない。黒澤得意のマルチ・カメラ方式が取られたのも、この作品が最初である。

 この作品も他の黒澤映画同様、数々のエピソードに彩られている。当初は<ある一人の武士の生活をリアリズムで描く>という地味な企画だった(いくら「侍」といっても、その大半はいまでいうサラリーマンのような存在)。ところが当時の生活を調べていくと多々、不明な点が浮上。そのうち<百姓が自衛目的で浪人を雇っていた>事実が判明、いまの形に内容が変更されていった。

 黒澤以下脚本家たちがシナリオを書き始めたものの、雇われた侍が村に到着したところで展開に詰まってしまう。「おそらく、村人は侍たちを恐れて家から出てこないだろう。さて、どうするか?」そこで考え出されたのが<侍に憧れ真似している百姓>という中間的立場の存在ー「菊千代」!当初、侍のリーダー役に想定されていた三船敏郎は、ここで菊千代役を演じることになる(リーダー役はご存知、志村喬)。

 この他、ロケの遅延に痺れを切らした東宝の重役たちが撮影を切り上げさせ、撮影した分だけで公開しようとしたところ<クライマックスの戦い>の撮影がまだ行われていなかった為、残りの撮影を許可した話(これは黒澤の狙い通り!)などー枚挙にいとまがない。映画と同じくらい、裏話も興味深いー黒澤映画のもうひとつの<面白さ>といえよう。

 黒澤明、そして侍を演じた七人の俳優ーもう彼らはこの世にいない。だが、画面から<熱風>が吹き出してくるかのような凄まじき映画が残された。我々、日本人はこのフィルムをこれからも観続けることだろう。

 余談だがー知る人ぞ知る東宝の職人監督・鈴木英夫はサスペンス映画「彼奴を逃がすな」(これも面白い)において、「七人〜」で恋仲となる(でも結ばれない)木村功津島恵子を<夫婦役>で起用した。悲恋に終わった二人の<その後>を観るかのようでー嬉しかった!!