其の676:<番外編>某映画誌70年代ベスト10

 2018年も残り1か月を切りました・・・。平成最後の正月が近づいてきていますが・・・特に何も年明けの準備してない(苦笑)!

 
 個人的に今年は物心ついてから一番映画館に行ってない年になっていて、マジでヤバい(汗)。そんな中、先日、某老舗映画雑誌(あくまで某ですよ、某!)がアンケートをとって1970年代の邦画・洋画ベスト・テンを掲載しました(こういう企画は筆者も好き❤)。70年代は筆者にとって幼少期から少年時代を過ごした大事な時期でもあるので(勿論、映画に開眼したのも70年代だ)それぞれの上位ベスト10を紹介したいと思います。若い人は鑑賞の参考にしておくんなまし^^。

 まずは我が日本国のベスト10から(票が同数の場合は同じ順位です)。

 1位:「太陽を盗んだ男」(’79)
 2位:「仁義なき戦い」(’73)
 3位:「新幹線大爆破」(’75)
 4位:「ルパン三世 カリオストロの城」(’79)
 5位:「HOUSE ハウス」(’77)
同5位:「復讐するは我にあり」(’79)
 7位:「犬神家の一族」(’76)
 8位:「砂の器」(’74)
 9位:「青春の蹉跌」(’74)
同9位:「竜馬暗殺」(’74)

 
 ・・・という結果になってます。さすがにこれ全部は観てないけど大半は観てますなぁ。<70年代>は日本映画黄金時代も終わってて、学園紛争が終息を迎え、若者達が「やっぱり国家権力には敵わねぇ」と“シラケた”暗〜い&重〜い時代。その反動で“ネアカ”な80年代が来る訳ですが、1位の「太陽を盗んだ男」は、70年代最後の年に公開されたパワー溢れた作品!こんな凄い設定の作品はそうはないよなぁ。監督は今や生きるレジェンド・長谷川和彦、加えて主演はあの沢田研二!!遥か後にコンサートをドタキャンして騒動になろうとは、この時、誰も予想してない(苦笑)。
 筆者が唯一100回観ていて、個人的邦画ベスト1の「ルパン三世 カリオストロの城」が入ってて良かった^^。筆者は誰が何と言おうと宮崎駿監督の劇場映画最高傑作は「カリ城」だと確信している。
 あと「犬神家の一族」は筆者にトラウマを与えた忘れえぬ一作。「犬神家」がきっかけで筆者はすっかり推理小説ファンになった&尊敬する人物のひとりに実在していないのに金田一耕助も挙げるように(馬鹿か)。余談だが、金田一さんは事前犯罪防御率ほぼ0%ではあるけどね(苦笑)。
 俯瞰でこのベストを見るとエンタメ作から社会派ミステリー、実話系と幅広く入っていて・・・なかなかバランスがとれたラインナップになってるなぁ、と。70年代の日本はアニメブームの始まりでもあったので、個人的には「さらば宇宙戦艦ヤマト」とか「銀河鉄道999」がもっと上位にきて欲しかったけどさ。

 後に「2010年代日本映画ベスト」のアンケートとったらベストセラー小説の映画化、それに少女漫画の実写映画ばっかりになりそうな・・・。

 
 続いて「洋画」ベスト10です。年号は製作年です。日本公開年ではありませんのでご注意。

 1位:「タクシードライバー」(’76・米)
 2位:「ダーティハリー」(’71・米)
 3位:「スター・ウォーズ」(’77・米)
 4位:「ゴッドファーザー」(’72・米)
 5位:「旅芸人の記録」(’75・ギリシャ
 6位:「未知との遭遇」(’77・米)
 7位:「JAWS ジョーズ」(’75・米)
同7位:「時計じかけのオレンジ」(’71・英=米)
同7位:「ミツバチのささやき」(’73・スペイン)
10位:「地獄の黙示録」(’79・米)

 
 これは日本の特色かもしれないけど・・・世界中で毎年、山ほど映画は作られているのに・・・ハリウッド映画ばっかり(驚)!!で、筆者はアメリカン・ニューシネマ好きでもあるので、結構リアルタイムで観てるし(←昔は町のあちことに2本立て、3本立ての「二番館」、「三番館」があったのよ^^)、このリストの大半のDVDを持ってる(苦笑:日本人だなぁ・・・)。
 個人的にも「タクシードライバー」1位に何の異論もない。あの空気感こそ70年代のアメリカよ!よくマーティン・スコセッシロバート・デ・ニーロのコンビ最高傑作は「レイジング・ブル」と言われるけど、筆者は「タクドラ」(・・・って略すか?)こそ最高傑作だと思ってるし。
 クリント・イーストウッド主演作「ダーティハリー」は刑事ドラマのフォーマットを作ったといっても過言ではないし、「スター・ウォーズ」は現在のSFXにつながる基礎ともなった<世界映画史>を語る上でも外せない一作。ただ、当時、この映画の続編をアラフィフになる21世紀まで観る事になろうとは夢にも思わなかった(苦笑)。
 10作中、スティーヴン・スピルバーグ2本にフランシス・フォード・コッポラが2本。筆者がスピルバーグのファンになったのもわかるよなぁ。完全に時代の洗礼を受けている(笑)!
 日本では<カンフーブーム>もあったから個人的にはブルース・リーの「燃えよドラゴン」(’73・米)や、来年スピンオフが公開される「ロッキー」(’76・米)も10位内に入っててよかった思う。あと、これが「映画秘宝」だったら「ゾンビ」(’78・米)と「悪魔のいけにえ」(’74・米)もベスト10入り確実(笑)!!
 
 70年代は興行的に落ち込んだハリウッドが映画作家の時代になった・・・と思いきや「スター・ウォーズ」ほかの大ヒットがきっかけで、再びスタジオのプロデューサーが権力を握り、予算をかけた大作がほとんどの劇場を埋め尽くすブロックバスター方式を生む時代の始まりでもあった(その辺りの歴史的興味がある人は個人的にも調べてね★)。そんな21世紀の今ではアナログからデジタルの移行が進んで、フィルムでの撮影は少数となり、映画館はシネコンが激増・・・。この2010年代、後に歴史家はどんな時代だったと記すのか・・・興味深いところだ。
 

 さて、今回取り上げた某老舗映画誌は、今度は1980年代のベスト10発表をスタートさせた!機会があったら来年のよき時に・・・取り上げようかしら?予定はあくまで予定なので、あしからず^^


 

其の675:ベルトルッチ追悼「暗殺のオペラ」

 もう11月も終わり。2018年も・・・残り1か月(早っ)!!!

 イタリア映画界の巨匠ベルナルド・ベルトルッチが亡くなられた。享年77。ベルトルッチといえば問題作「ラストタンゴ・イン・パリ」や米・アカデミー賞受賞作「ラストエンペラー」で知られる監督(個人的には「1900年」が最高傑作だと思う)。そのベルトルッチの初期作「暗殺のオペラ」(’70)は長い間、権利の問題でDVD化されなかった“幻の作品”。それがつい先日、DVDとブルーレイが発売され、喜んでソフトを買って観たら・・・その2日後にこの訃報(驚いた)!!そんな個人的経緯も含めて、今回「暗殺のオペラ」を書く事にしました。筆者的な追悼・・・でもあります。


 1960年代、北イタリア・エミリア地方ー。小さな町「タラ」の駅に青年アトス(=ジュリオ・ブロージ)が降り立った。約30年前のこの町で、彼の父にして同じ名前のアトス・マニャーニ(=ジュリオ・ブロージの2役)は反ファシズム抵抗運動の闘士として命を落とし、いまでは英雄として町のあちこちに彼の名がついた広場や建物、胸像が建てられていたのだが・・・何故か町には老人と子供の姿しかない。
 アトスを町に呼んだのは、父のかつての愛人ドライファ(=アリダ・ヴァリ)で、父・アトスの暗殺事件が現在も謎の為、その真相を息子である彼につきとめて欲しいという依頼だった。父アトスは1936年6月15日の夜、新装のオペラ場でジュゼッペ・ヴェルディのオペラ「リゴレット」の観劇中、何者かの銃によって背中を撃たれて殺された。事件後すぐ、アトスの妻は町を出ていったのだが、ドライファによると、警察は彼がムッソリーニの黒シャツ隊のファシストと日頃反目していた事、更に遺体から匿名の手紙が発見され「アトスが劇場に入れば命はない」という脅迫文が書かれてあった事から、余りにも明白な犯行として捜査をいい加減にしたという。話に乗り気のしない息子アトスだったが、その夜、何者かに馬小屋に閉じこめられ、朝には見知らぬ男から暴行される。真相を探る為、かつて父と共闘していた抵抗運動の生き残り3人との接触を試みるアトスだったが・・・!?


 アルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの僅か10ページにも満たない超短編「裏切り者と英雄のテーマ」を元にベルトルッチらが大胆に脚色。イタリアの“テレビ用映画”として製作され、海外では劇場公開された。スティーヴン・スピルバーグの「激突!」とかと同じパターンですな^^。
 なにより重要なのは、この「暗殺のオペラ」がベルトルッチと天才撮影監督ヴィットリオ・ストラーロと本格的に仕事をした作品という事(→フランコ・ディ・ジャコモと共同撮影)!ミステリー仕立てのストーリーながら、北イタリアの田舎町の風景が本当に美しいー。ベルトルッチマグリットやガブエの絵画を参考にして、今作の色彩や光を決定したという。ストラーロはこの当時、まだ一人立ちして間もない時期だったけど、撮影台本に全シーンの照明プランを詳細に書き込む事で有名だから・・・今作でも燃えに燃えてアイデアを考えたのではないか。後年、ベルトルッチは「ヴィットリオは光の絵筆を持っている」という発言をしているが、ストラーロにおいても初期作のこの作品でも、彼の映像美を充分に堪能出来る。また、この作品当時、ベルトルッチ弱冠29歳!!若い時って、意表を突いたカメラワークとかをやりがちなんだけど・・・今作では<移動撮影>を多用。時には人物をカメラが追っていたら何気にカメラを追い抜いたりもするシーンもあったりして「遊んでるな〜❤」と筆者的には微笑ましく鑑賞した次第^^。
 現在をベースに過去のシーンがちょいちょい入ってくる構成なんだけど、息子と殺された父親をジュリオ・ブロージが2役で演じるほか、過去のシーンでも出てくる人が“若作りメイク”せずに出てくるんで・・・段々、観ていて時間軸が曖昧になってくる不思議な感覚に。この狙いの演出にも、若きベルトルッチの才気がうかがいしれよう^^。
 出演俳優陣としては・・・やっぱりアリダ・ヴァリの存在が大きい。彼女はイタリア人ながら、誰もが知る名作「第三の男」やハリウッドのヒッチコック作品にも出演されたワールドワイドな大女優。この作品では大分お年を召されているけど、その貫禄たるや!素敵な女優さんだったと思う。

 
 意外な真実が分かってスッキリ終わるかと思いきや「・・・!?」というラストシーン。当然、このブログでは書かないので、興味ある方は作品を観てちょんまげ(死後)。「大傑作!」・・・とまで筆者は褒めないけど、若きベルトルッチがやる気マンマンで作った秀作だ。


 またひとり、偉大な監督が亡くなってしまった。ホント、悲しいわ・・・。彼と「ラストエンペラー」ほかで仕事した坂本龍一さんもショック受けたと思うなぁ・・・。

其の674:来年、続編公開「IT」短評

 11月に入ったと思ったら早くも下旬に!!マジ忙し過ぎて何もしてないぞ・・・(焦)。

 
 殺人的スケジュールの中、ようやく観賞した内の1本がスティーヴン・キングのホラー小説「IT-イット-」の2度目の映像化、「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」(’17・米)。
 決して熱心なキングの読者ではない筆者は最初のテレビシリーズも未見だし、今作について大して予備知識もないまま観たのだけれど・・・映画は面白かった^^!!来年、続き(チャプター2)も公開予定なのでネタバレしない&興ざめしないようサクッと書きます。本当にサクッと^^


 
 1980年代末、アメリカのある田舎町で・・・。少年・ビルの幼い弟が大雨の日に外に出た際、大量の血痕を残したまま行方不明になった。この町では児童が行方不明になる事件が相次いでいた。翌年、ビルや仲間たちの前に“それ(IT)”が突如現れるては襲撃されるようになって・・・!?
注)あまりメジャーな俳優さん達が出ていないので、そこんことは割愛しました。

 
 キングの長〜〜い原作を「子供時代のみ」に話を絞って分かりやすく&「時代設定を80年代に変更」した事で、劇場に足を運ぶ世代のノスタルジー(郷愁)をかき立てた事が大ヒットした要因だと思われる。現に筆者も80年代に思春期を過ごしたその世代のひとり^^。

 観た感想としては、同じくキングの「スタンド・バイ・ミー」のメンバーに女子を加えて(当然、メンバーにはデブも在籍^^)ホラーテイストを加えた“少年少女青春もの”といったところか。最新技術も駆使して“それ(IT)”が描かれるんだけど、めちゃめちゃ怖い・・・よりは怖さを越えて爆笑したところも多々あり。単に恐怖するだけの映画じゃないのもグー。

 「スクール・カースト」の底辺に所属する主要メンバー(少年少女たち)それぞれに個人的&家族的に問題があるところも描かれていて、そこらへんの共感もヒットにつながった気もする。イジメっ子は最終的には●●という人生の教訓も描かれる(笑)。しかし、この町の大人たちは何故全員怖いのか(苦笑)!?筆者的には“それ”よりも大人たちの方が恐怖だったわ^^。

 監督はアルゼンチンのアンディ・ムスキエティアンドレス・ムシェッティと表記される事も)で年齢40代半ば。商業映画2作目で、この完成度は大したもの。続編も監督するとの事なので、大いに期待したい・・・けど大ヒットの後だけに、プレッシャーでめっちゃスベったりして(苦笑)。


 <続編>といえば来年1月公開の「クリード」の2作目。なんとアポロの息子が親父を殺したドラゴ(=ドルフ・ラングレン)の息子(・・・あんな怖い嫁さんとの間に子供いたんか)と戦うという凄い内容!!80年代に思春期を過ごした世代としては、これは燃えるね(萌えじゃないよ)❤

 さらに「ガンダム」は小説「閃光のハサウェイ」が映画化決定(驚)!!次の「ハリウッド版ゴジラ」にはキングギドラも出るとか・・・あっちゃこっちゃ凄いことになってきたな🎵


 



 

 

其の673:奇々怪々!乱歩地獄「盲獣」

 11月になりました。2018年もあと2か月!「平成」も残り半年!!

 ・・・半月ぐらい死ぬ程働いたので(日帰り地方出張もあり)心身共に疲弊した中、ふと思い出した作品が「盲獣」(’69)でした(なんでやねん)!原作はご存知、江戸川乱歩。監督は「くちづけ」、「兵隊やくざ」シリーズ&「スチュワーデス物語」の増村保造放送禁止用語連発なので、テレビじゃ音声オフにする以外は放送出来ない<カルト映画>です(当ブログのお約束^^)。


 モデルの島アキ(=緑魔子)は、自身のヌード写真を展示する個展会場で、彼女をモデルにした石膏裸像を撫でまわす異様な男を目撃する。数日後、自宅にマッサージ師を呼んだアキは男にクロロホルムをかがされた上、誘拐されてしまう。彼女が意識を取戻すと、そこは目や鼻、唇、乳房や手足等のオブジェが壁に無数に並べられ、巨大な2体の女性裸体像が置かれた異様な倉庫の中だった。この部屋の主にして犯人の蘇父道夫(=船越英二)は先天的の盲人。彼は女体を題材に"触覚"で感じる芸術作品を創るべく、母親(=千石規子)に手伝ってもらって写真が評判になっていたアキに狙いを定めたのだった。道夫はアキに彫刻のモデルになって欲しいと懇願する。激しく拒絶するアキ。だが翌日、奇怪な密室で一晩過した彼女は、彫刻が完成次第、釈放する事を条件にモデルを引き受けるのだが・・・!?


 出演者はあらすじに書いた上記3人のみ!お話の大半は、いかにも乱歩な変態チックなセット内!原作とは誘拐されて以降の展開が全然違うんだけど・・・まぁ、色々と凄い映画よ(笑)。ちなみに明智小五郎は出ませんので御注意。
 原作を脚色する際(大御所・白坂依志夫が担当)、ウィリアム・ワイラー監督作「コレクター」(’65)を念頭にしながら、フランス映画「顔のない眼」(’60)もプラス。もっとも脚本第1稿にはスプラッター描写もあったが、増村の指示で変更されたそうで。こうして映画はサイコホラー的な原作をヒロインの心情の変化を綴った異常性愛映画(?)となった。
 今作<1番の見所>はなんといっても男が「アトリエ」と呼ぶ異様な室内!壁一面に大量の体のパーツが並び、超巨大な女の裸体オブジェが2体も置かれとる(フェリーニの映画みたい^^)。出演者が少ない分、予算の多くをセット費用に回せたのかもしれませんな。増村から「壁のオブジェをエクスタシーの表情にしたい」と提案された美術の間野重雄は、各部位、各パーツにどのように襞感を付けるか思案したという。それにしても量も大きさも凄いから・・・作った方々はさぞかし大変だったと思う(同情)。このセットは観る価値大!
 ヒロインの緑魔子は妖艶なキャラを体当たりで演じて正に適役(&乳出しもあり)。一方、自称・芸術家にして変質者役の船越英二は実際に盲学校に通って表情や動きを研究したそうでリアル且つある意味、目的の為に精神がイっちゃった感じが良く出ていて感心したわ(市川崑監督作「野火」では飢餓に苦しむ兵隊役の為、撮影前に絶食した程の役者馬鹿)。

 江戸川乱歩原作の映画は数あれど、今作はラストのオチのつけ方も凄いし、これは映画好きなら必見の映画でしょう。触覚はないけれど、目で観てビジュアルを愉しむ・・・これこそ<映像芸術>!!興味ある方は実相寺昭雄監督2作品と石井輝男監督の「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」も併せてどうぞ❤


 ・・・今年ほど物心ついてから映画館に行ってない年もない。個人的に観たい映画があまりなかったものだから・・・でも、これは観なさすぎてる。マジでヤバい平成最後の秋。

其の672:本邦初の大人のアニメ「千夜一夜物語」

 仕事で超ハードな日々が続いています・・・。救いはようやく秋らしく(=涼しく)なってきた事かな・・・(虚)。

 筆者は実写は勿論、アニメ映画も大好きで寝る前に少々、アニメのソフトを観たりもする。観る率が高いのは「カリオストロの城」に「イデオン発動篇」、「逆襲のシャア」あたり(めっちゃ偏ってる:笑)。そんな嗜好もあるので、久々にアニメ作品をご紹介!故・手塚治虫総指揮による「千夜一夜物語」(’69)を取り上げます。「アニメラマ」なる造語(=アニメとドラマの結合、アニメのシネラマ化の意)がつけられた、これぞ"日本初の大人のためのアニメーション映画(エロあるから)"!!


 貧乏な水売りの青年アルディン(声:青島幸男)は砂漠を越えてバグダッドにやって来る。ある日のこと、女奴隷市場で売りに出された18歳の美女ミリアムに一目惚れした彼は、オークションに参加するも金がなくて惨敗!すると、街を竜巻が襲い、そのどさくさにまぎれて彼女を連れ出し、人気のない豪邸に逃げ込む。愛し合う2人・・・だが、そこは覗き趣味のある大金持ちの変人・シャリーマンの屋敷だった。あえなく監禁される2人。そこへ野心家の官吏バドリーと40人の盗賊が急襲!アルディンは捕らえられ、ミリアムと引き離されてしまうー!


 ・・・これ以上書くと未見の方の興味が半減すると思うので、粗筋はここまでですな^^!皆さんもご存じのイスラム世界の説話集「千夜一夜物語アラビアン・ナイト)」をベースにしながらも「女護ヶ島」や「バベルの塔」等、他からもネタを持ってきて手塚先生らしいイマジネーション溢れる冒険が繰り広げられる。しかも上映時間130分の大作^^!

 とにかくスタッフが凄いのよ・・・総指揮、構成脚本(共同)が手塚治虫、監督は後に「宇宙戦艦ヤマト」に参加する山本暎一。キャラクターデザインと美術に「アンパンマン」のやなせたかし(!)。作画スタッフに手塚先生&やなせ先生の他、筆者が敬愛する出崎統に「銀河鉄道の夜」やあだち充作品を監督する杉井ギサブロー、ノンクレジットながら「ルパン三世」の大塚康生も!音楽は冨田勲大先生、主題歌を歌うのは「ルパン」のチャーリー・コーセー!!アニメファンなら「おお!」と唸る超豪華メンバーである。あくまで・・・コアなアニメファンだけだけど(笑)。

 元々は日本ヘラルド(洋画系配給会社)から手塚先生が社長を務める虫プロに企画が持ち込まれ(今作が虫プロ初の劇場作品)、ゲーテの「ファウスト」やボッカチオの「デカメロン」が検討された結果、最終的に「千夜一夜物語」に決定。山本監督らがまとめた脚本を手塚先生が絵コンテで膨らませたところ・・・膨らませすぎて(笑:時間にして4時間分もあった)、山本監督があっちゃこっちゃ整理しながらストーリーを構築、2時間強にまとめたそうな^^。

 <アニメ>ではありますが・・・実写では難しい様々な映像技法を駆使しているのが今作最大の特徴でしょう。マルチ画面のほか、単色でモノクロームにしたシーンや鉛筆画(性表現で実写では出来ない演出を可能に)、中でも移動しながら背景とモブ(群衆)シーンが一体化した場面には・・・筆者も目を瞠った。これ、相当手間がかかることなのよ!また「バグダッド」のロングショット(遠景)や「バベルの塔」の全景等にはミニチュアを作って合成。砂漠や海のシーンにも実写が使用され、「竜巻」は洗濯機の渦巻きを撮影したものを使用したという(円谷プロみたい)。・・・商業作品なのに、実験映画、前衛映画でもあるというのも凄い(驚)!

 声優陣には先述の青島先生のほか、芥川比呂志岸田今日子小池朝雄加藤治子ほか"俳優"さん達が大挙出演(←これ、近年、声優ではなくて俳優さんを起用するキャスティング方法を先取りしてるよね)。更には<友情出演>として「一言ずつ」文化人、著名人も参加。主だった人を挙げると作家の遠藤周作吉行淳之介北杜夫、「日本沈没」の小松左京筒井康隆大先生。更には大宅壮一大橋巨泉前田武彦立川談志師匠、野末陳平まで!ぶっちゃけ、どれが誰の声だかほとんど分からなかったけど(苦笑)、映像面だけでなく、音響面でも凄い作品だと言えるでしょう。

 手塚先生の多忙(漫画連載、何本も持ってた)に複雑な制作工程の結果、初公開時には一部の映像が完成せず、結果そのまま上映(・・・今だと大問題になったかも)。公開の途中から完成版のフィルムに差し替えられた経緯あり。後年も手塚先生が作品に絡んだ結果、完成がギリギリになった作品はあるから、その先駆とも言えそうだ。苦労の結果、映画は大ヒット・・・したけれど虫プロ的には時間なくて外部プロにも発注したもんだから赤字だったらしい。生前、手塚先生がテレビで「漫画は恋人、アニメは金のかかる愛人」とコメントしていたのを観た記憶があるんだけど・・・その言葉通りの作品ですなぁ!但し、日本映画史に記録される作品である事は間違いないので、その偉業を筆者は讃えます^^!


 その内、このアニメラマ第2弾「クレオパトラ」も更新・・・予定。あくまで筆者の気が変わらなかったら、だけど。

其の671:デル・トロ版「E.T.」?「シェイプ・オブ・ウォーター」

 ・・・9月中は個人的に色々ありました。それですっかり更新が遅れてしまいました。涼しくなったのはいいけれど、毎週末、台風が来るのは・・・(困)!

 先日、アカデミー受賞作「シェイプ・オブ・ウォーター」を観ました。監督・脚本(共同)はギレルモ・デル・トロ(おたく)!映画は彼のクリーチャー愛に溢れた「ファンタジー映画」かと思いきや・・・種を越えた「恋愛映画」でもありました(驚:でもホント)!!


 1962年、東西冷戦下のアメリカー。言葉が話せない独身の中年女性イライザは映画館の上にあるアパートに住み、夜間「航空宇宙研究センター」で清掃員として働いている。ある日、センターに新メンバーのホフステトラー博士が赴任すると同時に"ある生物"を入れた巨大なタンクが運びこまれてくる。程なく軍人上がりの警備担当・ストリックランドが、生物に襲われ指を2本失う事件が起こる。その清掃の際、部屋に入ったイライザはその生物ー<半魚人>を目撃する。生物に興味を抱いた彼女は自分の好物であるゆで卵を与え、手話を教えたり音楽を聞かせたりして意思の疎通を図るようになる。 南米・アマゾンの奥地で神として現地人の崇拝を受けていたという生物を、ホフステトラーは人間に代わる宇宙飛行士としてロケットに乗せようと提案するもストリックランドは、生体解剖でこの生物の秘密を明らかにすべきと主張し上官も同意する。これを知ったイライザは、アパートの隣人で画家のジャイルズに協力を懇願する。一方、ホフステトラーは実はソ連のスパイで、政府からアメリカが生物の秘密を知って宇宙開発の優位に立たぬ前に生物を殺すよう政府に命じられる。米ソの思惑が入り乱れる中、イライザは半魚人を逃がすべく行動を開始するのだが・・・!?

 
 書けるのはここまで!作戦がうまくいくのか否か、その後どうなるのかは観てのお愉しみという事で(あしからず)^^俳優陣は大メジャーな人は出ていないので割愛。

 全部ではないけれど、ちょいちょいデル・トロ作品は観ている筆者ですがー今作はティム・バートン風かなとも思いきや・・・性描写が多い!!ヒロインの脱ぎ率も高い上に、映画が始まって早々に彼女がオ●ニーしたりする(驚)!このあたりはデル・トロさんも大人になったという事かしら。

 作品としては「美女と野獣」とかに連なる系譜ですが・・・半魚人のデザインがいいね!最初の内は怖いんだけど・・・観ていくうちに愛嬌がある顔に見えてきた。ヒロインとダンスまで踊るし(笑)。なんでも、このデザインに辿り着くのに3年かかったようだが、その甲斐はありましたな。俳優に特殊スーツとメイク&CG使ってるが・・・完璧な仕上がり(さすがハリウッド)。また、移動撮影を多用しつつ、美術も含め映像的に色彩も綺麗で・・・中でも水中シーンの美しさは特筆に値する。

 あまり誰も指摘してないようだけど、ちょっとスピルバーグの「E.T.」に類似点が多い気が・・・(私だけ?!)。イライザは少数ながら友人はいるものの、家族も恋人もいない寂しい度の高い人。「E.T.」の主人公・エリオットは家族はいるけれど父親不在で、ちょいと寂しく思っている。そんな中に人間とは違う生命体が絡んでくる点。「E.T.」同様、半魚人にも<特殊能力>があるし、"生物"に対し政府の思惑が絡む&それを助けるべく逃亡を図る点も同じだ。今作を筆者はデル・トロ版「E.T.」と感じたのだが・・・如何かな?それをまんまにならないよう、性描写も足した・・・みたいな(笑)。デル・トロもスピルバーグティム・バートンも"おたく(「ゴジラ」とかモンスター大好き)"という共通項もあるから似てくるのはある意味、当然と言えば当然だろうけど^^。

 
 今作が評価されてグレードの上がったデル・トロさんだけど、おたくスピリットを忘れずにこのまま突き進んで欲しい!スピルバーグ、バートンにタランティーノほか・・・おたくは世界の映画をリードする!!


 <どうでもいい追記>個人的に年内は夏以降・・・あまり観たい映画がなくて、しばらく映画館にいってない(涙)。そこでついついマカロニウエスタンや80年代のドラマ「陽あたり良好!」辺りのDVDを観てしまったりする今日この頃。いいんだか悪いんだか。



其の670:大作!「牯嶺街少年殺人事件」

 9月も半ばになって、ようやく少し涼しくなってきました。秋も近し・・・かな!?筆者が多忙なのは2018年9月も変わらず(涙)!

 
 世の中には実験映画も含め、上映時間の長い映画が多々ある。メジャーなところだと「ファニーとアレクサンデル」、「1900年」、「ベン・ハー」、「アラビアのロレンス」、「風と共に去りぬ」、「七人の侍」、「赤ひげ」・・・。若くして亡くなった台湾のエドワード・ヤン監督作品「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」(’91)もそんな長〜い映画の内の1本。2バージョンあるもののそれぞれ3時間8分と3時間56分と、どっちも長い!権利関係の問題で長らくリバイバル上映もなければDVD化もされなかったけれど・・・先日、再上映&初のDVD発売(喜)!!リアルタイムで見損なった筆者もようやく3時間56分版を鑑賞した次第。ちなみに間違える人はいないと思うけど、タイトルから「ミステリー映画」だと思ってはいけません^^。


 1960年代初頭の台湾。国民党の厳しい思想統制下、大人たちの複雑な社会階層を反映したかの様に、少年たちは"小公園"、"217"といったグループを形成、抗争に明け暮れていた。台北で暮らす小四(読み:シャオスー。演じるのは「レッドクリフ」2部作にも出ていたチャン・チェン)は、建国中学・昼間部の試験に落ち、夜間部に通う事になる。1年後ー。小四は、"小公園"に属するクラスメイトの王茂(読み:ワンマオ)らとつるむ様になっていた。
 そんなある日、保健室にいた小四は、膝を怪我して治療を受けていた女生徒・小明(読み:シャオミン)を教室まで送り届ける事に。教室に戻らず、外に出たことから小四は彼女が"小公園"のボス・ハニーの恋人である事を知る。ハニーは敵対する"217"のリーダーと小明を奪い合った結果、殺人を犯し台南に逃げていた。すると、そのハニーが突如、台北に姿を現して・・・!?


 エドワード・ヤン楊徳昌)は1947年、中国・上海に生まれるも2歳の時、台湾に移住。台湾交通大学とフロリダ大学でエンジニアリングを専攻、後に映画製作に興味を持ち、南カリフォルニア大学映画学科で映画を学んだが、アメリカで電気技師として働いた。1981年、台湾に帰国。余為政監督のデビュー作「一九〇五年的冬天」で脚本と製作助手を担当して映画界入り。翌年、オムニバス映画の一篇で映画監督デビュー。 83年、初の長編映画「海辺の一日」でヒューストン映画祭グランプリを受賞。以後、「台北ストーリー」(’85)、「恐怖分子」(’86)、91年には今作を手掛け、侯孝賢と共に<台湾ニューシネマ>を代表する監督の一人になった。2007年6月、結腸癌による合併症でアメリカ・カリフォルニア州ビバリーヒルズの自宅で惜しまれつつもこの世を去る。享年59。


 1961年の夏、台北で14歳の少年が同い年のガールフレンドを殺害するという、台湾初の未成年による殺人事件に着想を得た今作。不良少年同士たちの争いをベースに思春期特有の心の機微を描いた<青春映画>の体をとりつつ、「大陸(=中国・本土)に帰りたい」と願う少年たちの親世代をも描く事で、60年代当時の台湾の社会状況をも描くという野心的な試み。尺が長い意味がここにある。

 主人公・小四を演じるチャン・チェンは、当時ズブの素人ながら口数の少ない内向的なキャラをナチュラルに演じて好印象。ただ彼の仲間の方がプレスリー好きで歌が上手い奴とか、日本刀やピストル持ってる転校生とかいて遥かにキャラが立っている(笑)。14歳頃って・・・勝手な思い込みで「もう一人前!もう大人!親うざい!」とイキがってる年頃じゃない。その気持ちは筆者も忘れていないので、少年たちの言動にある程度の共感はしながら観れた。ちなみに主人公の父親役と兄役の俳優は、チャン・チェンの本当の父親と兄貴(驚)!!チャン・チェンエドワード・ヤンから、ありとあらゆる方法による演技指導を受けたそうだが、彼が素人の少年故、ヤン監督が精神面をも考慮しての<家族丸ごとキャスティング>だったと思われる。

 キャラ設定もストーリー展開も素晴らしいと思うが・・・何よりも筆者が「エクセレント!」と思ったのは<60年代の再現力>と<映像美>!!筆者も遥か昔に台湾に一度しか行った事ないけど・・・当然の事ながらロケは、1960年代当時の建物を探して撮影してると思うんだけど、ラジオやポスターほか小道具も含めて「きっとこんな感じだったんだろうな〜」と普通に納得した次第。で、肝心要の"映像"は・・・主人公が学校の夜間部に通っているという設定なので、ナイトシーンも多いんだけど、考え尽くされているけれど必要以上にそれをアピールしていない構図にカメラワーク、そして夜の照明・・・。中でもある程度引いたサイズの画(大ロングショットではない)がバッチリ決まってて素晴らしかった^^!オリジナルの脚本を読んでいないし、どれだけフィルムを回したのかは分からないけど・・・これだけの量を撮るのが如何に大変な事か!筆者なぞ30分のVTR作るのもヒーヒー言ってたから(笑)、スタッフ・キャストの苦労が容易に想像出来た。


 エドワード・ヤンとしては自分がリアルタイムで少年時代を過ごした60年代を描こうという強い意図をもって監督(共同脚本も)したと推察される今作。娯楽作ではないけれど、先にも書いたように「青春群像劇」であり、「社会派映画」でもあり。ただ単に「長いから!」というだけで食わず嫌いすると、映画ファンとしては損をすると思う。素直にいい映画だと思う^^。


 
 ・・・先日の大型台風に北海道の巨大地震・・・。あちこちで立て続けに起こる災害。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。