其の431:アメリカの黒歴史「マンディンゴ」

 町山智浩著「トラウマ映画館」(集英社刊)は、著者が少年時代に観て、タイトル通り“トラウマ”になった25本の映画が紹介されているがーあいにく日本でソフト化されている作品がほとんどない。そんな中、掲載中の1本「マンディンゴ」(’75・米)が先日奇跡のソフト化!そこで早速、筆者も観たのだが・・・いや〜、こりゃ子供のときに観たらトラウマにもなるわ(苦笑)。筆者的にも戦慄すら覚えた作品だが、こういう映画もなくてはイケナイし、抹殺するなどもってのほか(タランティーノも誉めてる)。このブログの使命として“後世に残す”べく、あえてここに記す次第。


 南北戦争以前の1820年代。南部ルイジアナ州のとある街。大規模な<奴隷牧場>を経営する老当主マクスウェル(=キューブリック版「ロリータ」のジェームズ・メイソン)は一人息子ハモンド(=ペリー・キング)に後をつがせるべく、没落した名家の娘ブランチ(=「わらの犬」のスーザン・ジョージ)と見合い結婚させる。ところがハモンドはブランチが処女でないことに激怒、黒人の娘エレンに心寄せるようになる。そんな中、ハモンドニューオリンズの奴隷市場で“マンディンゴ(→西アフリカ・マリ帝国の血をひく種族・マンディンカのこと。当時、奴隷商人たちは黒人の中の“サラブレッド”として珍重。高値で取引していた)”の青年ミード(=あのモハメド・アリとも対戦したボクサー、ケン・ノートン)を購入、主従関係にありながらも次第に人種を越えた友情を感じるようになる。だが、夫をエレンに取られ酒浸りになっていたブランチは、ハモンド不在の間にミードにセックスを強要し・・・一家は悲劇的な運命へとつき進んでゆくー。


 カイル・オンストットの同名ベストセラー小説を原作に、虐待から人身売買、異人種間セックスに拷問、さらには殺人に子殺し・・・と、悪夢のような恐ろしい出来事が次々と展開する123分!製作のディノ・デ・ラウレンティスは「底抜け超大作」も多々作った御仁だが(笑)アメリカ人が手を出さない題材に着手した心意気はえらいっ(さすがイタリア人^^)。

 筆者は特にアメリカの奴隷制度に詳しくはないのだが・・・これって全て事実なの?!ハモンドたち白人は奴隷の黒人娘と次々にセックスして子供を産ませ(→勿論、“混血児”だが、見た目は黒人)その子を奴隷として売り払うし(奴隷市場で夫を亡くしたドイツ人女性が夜の相手をさせようと黒人青年のチ●ポを握ってチェックするところは思わず笑ってしまったが)、黒人に医者をみせる時は<獣医>に診察させとる(棒を投げて「とってこい」とか、完全に動物扱いする描写も)!いうこときかないと虐待&拷問も日常茶飯事のようだし(恐ろしい)。詳しい方、是非ご教授の程を!
 「恐ろしい」といえばーDVDのパッケージは、マクスウェルが黒人少年のお腹の上に足を乗せてる場面。何故、そんなことをしてるかというと・・・マクスウェルは自身が患っているリウマチの<毒>を、黒人の子供の身体に吸わせれば病気が治ると信じてやっていることなのだ!!・・・迷信も甚だしいというか・・・現代感覚で観ると、もうあきれるしかない。

 監督はなんとリチャード・フライシャー!!フライシャーといえば、このブログでも以前書いた「ミクロの決死圏」の監督だぜ〜!町山氏の著書によれば、公開当時、彼は「奴隷制度は今まで事実通りに描かれたことがなかった。隠され、美化されてきた。それはもうやめるべきだ。」とコメントしたそう(確かに「風と共に去りぬ」にも黒人の家政婦とか出てくるけど、深い描写は全くなかったし)。フライシャーといえば、一般的には<B級映画の巨匠>という認識だが(それもあってるけど)自国の恥部、暗部を描く人が出てくるのが、日本と違うハリウッド映画の懐の深さを感じる(フライシャーも只ものではない)。

 内容は物凄いんだけど、ついてる劇伴はノホホンとしたカントリーソング(→音楽担当はモーリス・ジャール。スキャンダラスな内容に反してスタッフ、キャストは一流&メジャーな人たち)。このミスマッチ感もフライシャーの狙いだという。道徳や価値観、常識は正直、時代によって変化するからねぇ・・・今から見ると酷い時代だけど、当時はこれが当たり前だった・・・という<ギャップ>が表現されていて、この音楽センスは凄いと感心した。

 
 ご存じの通り、その後、リンカーンの「奴隷解放宣言」を経て南北戦争(1861〜65年)が起きるわけだけど(結果、奴隷解放反対の南軍の負け)その少し前の時代を背景に<没落を運命づけられた白人たちの愛憎劇>である今作。クライマックスの展開と結末は<ネタばれ防止>のために伏せますが、こういう過程を経て人権が叫ばれる<いま>があることを認識するべきだろう(日本人もその昔は酷いことやってたんで、アメリカ人ばかり非難できないことは承知している)。絶対教科書にはのらないアメリカ史ーそれが映画「マンディンゴ」だ(余談だが、公開されると世界的にはヒットしたものの、アメリカ国内ではボロクソに批判されたそうな。・・・フライシャーかわいそ)


 追記:映画について知れば知るほど“闇”が深くなる・・・。まさか、こんな迷宮に陥るとは執筆当時、思ってもみなかったわ(困)。巨大な映画史の闇が・・・闇が・・・って、「大菩薩峠」の机龍之介じゃないっつーの(苦笑)。