其の306:笑えるNEO伝記映画「アメリカン・スプレンダー」

 誰でも一冊は本(小説)を書けるといいます。要は自分のことを書けばいいから(つまる、つまらないは別の話)。それを「小説」ではなく「漫画」にすると、映画「アメリカン・スプレンダー」(’03)のようになる。主人公がボンクラのおっさんでもヒーロー(コメディだけど)になることが出来た非常に稀有な例。ちなみに「スプレンダー」とは「輝き」という意味だが、さてその輝きぶりとは??


 アメリカ・クリーブランドに住むハービー・ピーカー(=演じるのは「サイドウェイ」、「シンデレラマン」のポール・ジアマッティ)は退役軍人病院のカルテ係。2度の離婚を経験し、休みの日には趣味のレコード収集に精を出す冴えない生活(しかも30代後半)を送っていた。そんなある日、同じ趣味を持つ「フリッツ・ザ・キャット」のアングラ漫画家ロバート・クラムと知り合う。そこでピーカーは自分を主人公にして日々の生活を漫画にして発表する事を思いつく。こうしてピーカー原作、クラムの絵によるコミック「アメリカン・スプレンダー」を自費出版するのだが・・・。
 あら筋だけを読んで、どこが「輝いてんねん!」とつっこみを入れないように(本人曰く「皮肉」でつけたそうな:笑)。


 ハービー・ピーカーは1939年、オハイオ州クリーブランドに生まれる。19歳からは趣味のジャズについて評論を書き始めたが、それだけで食えるまでにはならず、病院のカルテ係(=定年まで勤めた)で生計を立てていた強持てのおっさん(現在のピーカーはちょっと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でドクを演じたクリストファー・ロイド似)。そんな彼が1976年、37歳の時に発表したのが「アメリカン・スプレンダー」である(=年に一冊のペースで出版。よく金あったな)。筆者は未読だが(すまんね)自分の身の回りに起こった些細な出来事を独特のテイストで描いているそうで、福満しげゆきの漫画「僕の小規模な生活」のルーツのような作品(笑)。この本がきっかけでピーカーはファンと再々婚し(=日本でいえば西●京●郎と●村美●か?)、漫画は87年に「アメリカン・ブック・アワード」を受賞。結果、本人は有名トーク番組にまで出演、さらには映画化・・・ってホント、アメリカって色んな意味で面白い国だ^^


 そんな漫画を原作にした今作なのですが・・・劇中のピーカーをくりそつに演じているのが先述のジアマッティなのですが(当初は「アルマゲドン」のスティーブ・ブシェミが主役候補だった)、彼がコミックのキャラと一緒に同じ画面に登場する手法は想定内ながら、ナレーションはなんとピーカー本人が担当(驚)。さらに突然、本人や奥さんが顔を出し、当時の裏話もするという異例の展開!時にはジアマッティが漫画のコマの中に入ってしまったりもする・・・話も面白いけど(=事実は小説より奇なり)、その意表を突いた構成や映像手法に<業界人>として感心させられた次第。漫画の実写映画化に<革命>をもたらせたかもしれない(その後が続いてないけどさ)。


 監督・脚本はロバート・ブルチーニとシャリ・スプリンガー・バーマンのアベックコンビ(死語)。それまで自主映画で名を上げてきた2人に今作のプロデューサーから「面白い漫画がある」と紹介され、原作を読んだところ気に入って製作に入ったという。一時期(90年代の終わり頃)「羊たちの沈黙」の監督ジョナサン・デミも映画化を目論んでいたそうだが・・・デミじゃなくて良かったのではないか?映画はカンヌで「ある視点部門・国際批評家連盟賞」、「サンダンス映画祭」ではグランプリを受賞(アカデミーでは脚本賞ノミネート)!その成功の勢いでロバートとシャリは入籍したそうだから良かった良かった^^。アメリカの映画人同士の夫婦ってなんとなく離婚してる人が多い気がするんで(スピルバーグデ・パルマジェームズ・キャメロン然り)どうぞお気をつけ遊ばせ。


 筆者も対抗して友人や後輩をモデルに業界内幕もの「ジャパニーズ・スプレンダー」を書こうかしら?面白いネタいっぱいあるんだけどな〜。いひいひいひひひひひひひひ(by筒井康隆


 <蛇足>なんか今の邦画は「純愛」、「難病」ときて、次は「パニックもの(ウィルスとか巨大台風とか)」が主流なのか?もしや・・・70年代に逆行した??