其の156:現代社会の歪みか「フォーリング・ダウン」

 現代は「ストレス社会」である。どんなお気楽な人でさえ、大なり小なりストレスを抱えていると思う。そして、それをいかにうまく解消するか(或いは「できるか」)が、現代人の大きな問題であり、必要な手段であろう。オスカー俳優マイケル・ダグラス主演の「フォーリング・ダウン」は、そんなストレス社会の中でつい<プッツン(死語)>してしまった男の物語だ。


 車のナンバープレートから「D−フェンス」のニックネームを持つ生真面目なサラリーマン(マイケル・ダグラス)。朝、真夏のハイウェイの大渋滞に巻き込まれた事が全ての始まりだった。余りの暑さと渋滞にキレた彼はー車を捨て、狂ったように歩き始める。彼は離婚しており、この日は別れた妻(バーバラ・ハーシー)と娘に会いたかっただけなのだがー様々な理不尽な出来事が彼を襲う。その結果、車を捨てた数時間後には彼はバズーカ砲まで持って歩く危険な男に変貌!大事件へと発展してゆく・・・。


 暑い夏、交通渋滞、離婚、物価高、外国人の進出、マニュアル商売、怠惰なお役所仕事、街に渦巻く暴力、不公平感・・・社会に渦巻く様々な要因が男を「平凡なサラリーマン」から「危険人物」と変えてゆく、その怖さ!!主人公を演じたマイケル・ダグラスは「危険な情事」、「氷の微笑」、「ウォール街」ほかで知られる名優だが、道を踏み外してしまった男を熱演。彼は主人公について「世の中が変わってどう対処してよいか分からなくなってしまった男」だとコメントしている。原題についている副題「ア・テイル・オブ・アーバン・リアリティー(「都市現実の童話」)」は・・・非常に意味深!
 ダグラスの脇を「ゴッドファーザー」、「地獄の黙示録」ほかフランシス・フォード・コッポラ映画の常連俳優ロバート・デュヴァル(キルゴア中佐!)や「タッカー」、「ハメット」のフレデリック・フォレストら渋い面々が固め、それぞれいい味出してます。


 秀逸な脚本を執筆したのは、これがデビュー作となるエブ・ロー・スミス。新聞記事にヒントを得て見事な本を10週間かけて執筆(「映画のアイデアが欲しけりゃ、新聞を読め」である)。
 監督は「セント・エルモス・ファイアー」、「オペラ座の怪人」、スーツに乳首をつけて原作者を激怒させた「バットマン」第3、4作(笑)を手がけたジョエル・シュマッカークリント・イーストウッドの「ミリオンダラー・ベイビー」にも描かれた<ホワイト・トラッシュ(=落ちぶれた白人中産階級)>を気をてらう事なく正攻法で描いている。


 この映画の主人公ほど過激なアクションは起こさないもののー自分で自分を持て余し、どうしていいのか分からず犯罪を犯してしまう人は日本にも大勢いる。現在の「格差社会」によって若者だけでなく、高齢者さえ犯罪に走る傾向が強くなっているニッポン・・・。なにを持って「美しい国」と言うのか筆者には、よくわかりまへん。