其の102:若人の大暴走「時計じかけのオレンジ」

 記念すべき100本越えの後は、尊敬する我がスタンリー・キューブリック大先生の「時計じかけのオレンジ」を!私はある意味、下手なホラーよりこの作品の方が絶対怖いと思う(笑)。


 秩序が乱れ、荒廃した近未来の<イギリス>。不良グループのリーダー・アレックス(マルコム・マクダウェル怪演!)は、今日も「ドラッグ入りミルク」で元気ハツラツ!皆で街に繰り出して浮浪者はボコ殴り、対抗するグループとは乱闘、更に人の家に押し入っては妻をもレイプする鬼畜の所業を日々繰り返す。ところが仲間に裏切られ、哀れ刑務所送り!ここで人格改造の治療を施された彼はおとなしい無害な人間として釈放されるのだが・・・。


 正直、凄まじい映画(笑)。キューブリック御大には「博士の異常な愛情」というブラック・コメディの大傑作を既にものにしていましたが、大作「2001年宇宙の旅」から一転、ロー・バジェット作品(=低予算)としてこの<ブラックな未来の寓話>を作り上げた。ポップでシュールなテイストが全編を貫いています(実は、これは<原作もの>で作者の体験を基に書かれた小説なのですが・・・こんなスタイルで映画化されるとは想像していなかったに違いない)。


 まず何より目を引くのは<奇妙なビジュアル>の数々!
有名なアレックスのツケまつ毛をあえて片方だけ逆につけるメイクに始まり、危ない「ミルク・バー」のエロい女性人形(ここからミルクが出る!)。前衛芸術家の家にあるチンポ型起き上がりこぼし・・・。「博士の異常な愛情」よりシュールで、遺作「アイズ・ワイド・シャット」よりセックスが全面に押し出されている(公開当時、日本だけにつけられたボカシは、キュー御大自ら処理した)。


 そして前作「2001年〜」でもみられた<既存の音楽の使い方>の妙!
主人公がまずベートーベンのファンということで彼のクラシック音楽は下より、これまた有名な天狗面をつけて(笑)人妻をレイプしながら歌われるのが「雨に唄えば」(唯一、マルコムがフルで歌える曲がこれだった)。女の子と3Pする時にかかる「天国と地獄」・・・。
キューブリック自身「下手な現代の音楽家に曲を依頼するより、クラシックなどを使った方がいいと思う」という旨の発言をしていたが、それを見事に実証した形。


 「あらすじ」で書いた以降の展開は<ネタばれ>になるので割愛しますがキューブリック御大のシニカルな演出とその美意識によって、衝撃作&問題作&傑作となっております(本当)。
筆者もこんなスタイルの映画にここしばらくお目にかかっておりません。こんな作品を作れる<偉大な才能の持ち主>の出現をクビを長くして待っている今日この頃・・・です。

 でも、この作品に影響を受けて悪さした若人のおかげで、我が身の安全を守るべくキューブリックは居住していたイギリス国内での上映を途中から禁止せざるをえなくなったオチあり!


 P.S 「主婦」さん!筆者が近日観賞予定のお薦め映画はー「ヅラ刑事」「40歳の童貞男」「日本以外全部沈没」・・・です(タイトルだけで選びました・笑)。