其の38:祖国喪失の悲劇・・・「アンダーグラウンド」

 反論もあろう事を承知で書きます。映画ファンにも色々ありますが、筆者は基本的に「ミニシアター馬鹿」は嫌いだ。<少数館でやっている映画こそ高級>という勘違い系の人が多いからだ。そういう人に限って実際、知識が妙に偏りすぎていて<一般教養>がない人が多かったりしてコケる(苦笑・でもホント)。
 いまから紹介する監督エミール・クストリッツアの「アンダーグラウンド」は面白いというより“凄い映画”だと思う。そろそろ<単館オタ>の呪縛から解き放つべき若き巨匠だ。

 物語は第2次大戦中のユーゴスラビア。主人公の男は一攫千金を企み友人・知人らを地下に隠し、武器を作らせるようになる。その後、戦争は終了したものの男はそれを皆に伝えず立身出世。政治の世界にまで踊り出る。・・・男の態度を不信に思い、地上に出てみた一部の人は戦争がとっくに終わり、祖国が失われたいた事実を知るー。

 クストリッツアは1954年、旧ユーゴスラビア生まれ。81年に監督デビュー以来、発表する作品のほぼ全てが何らかの賞を受けているという稀有な存在である(賞もらったから偉いとは一概に言いたくないが)。また作品の大半が「失われた祖国」を題材にしながらも戦争を痛烈に笑い飛ばす姿勢を貫いている(彼は戦後生まれではあるが)。この「アンダーグラウンド」もある意味、ブラック・コメディーであり、<寓話>ともいえる形式をとっている。戦争そのものより、争うことの無意味さ・虚しさをも浮き彫りにする。心身共に好調な時でないと一気に観られない重厚さもある。

 芸術映画であり、社会派作品でもあり、なおかつ娯楽映画でもあるのがクストリッッア作品。そればっかりで終わって欲しくはないが<単館オタ>だけでなく、広く皆にこれ一本でも観て欲しい。そして気にいったら他の作品も観て、その良さを広めて欲しい・・・と思うのです。