其の619:レイプ・リベンジものの原点!?「鮮血の美学」

 御承知の通り、映画には色んなジャンルがありまして、その中には“レイプ・リベンジもの”というカテゴリーがあります→→→大半は“ヒロインが悪人共に強姦されて、その後、ヤった相手に逆襲してヒロインも、観てるこちらもスッキリ!”というのが大まかなストーリー。エロとバイオレンスで助平な男性客を呼べる事から現在でもしっかり作られているジャンル(勿論、レベルはB級C級ではありますが)。「女囚映画」や「拷問映画」が完全消滅しないのと同じ(笑)。

 そんな“レイプ・リベンジものの原点”とも言われているのが「エルム街の悪夢」、「スクリーム」シリーズで知られるウェス・クレイヴンの初監督作品「鮮血の美学」(’72:2009年にリメイクされた方ではありません)。製作は「13日の金曜日」のショーン・S・カニンガム(経歴詐称のショーンKではありません)!ホラー界の2トップが作った映画を観ておかない訳にはいかんでしょう^^。


 自然豊かな郊外で暮らす少女・マリー。17歳の誕生日を迎えたその日、親友フェリスとコンサートを観る為、一路ニューヨークへ。開放的になった2人は“ハッパ”を買うべく売人と思しき男に声を掛けたのだが・・・彼らは先日、刑務所を脱走した凶暴な脱獄犯達だった!彼らに拉致された2人は車に乗せられるが、途中で故障してしまう。湖のほとりに連れて行かれたフェリスは逃げようとして刺殺され、マリーもレイプされた上、射殺されてしまう。足を失った犯人たちは、近くにある家に一泊させてもらうことになるが、そこはマリーの家だった!ひょんな事から娘たちが彼らに殺された事を知った両親は、復讐へと立ち上がるー!!(すみません、あんまりメジャーな人出ていないので、俳優名は割愛)

 
 ・・・このお話、映画詳しい人には今更書くべき内容でもないのだが、巨匠イングマール・ベルイマン監督作「処女の泉」(’60・スウェーデン)をベースにしてる(今風に言うとパクリ!?)。中世のスウェーデンを舞台に強姦されて殺された少女の悲劇&彼女の父親による犯人達への復讐、及び神への宗教心を描いたドシリアスな作品。筆者も中学時代、エロい映画かと思ってみたら・・・期待に反して最後はドーンと暗くなった(笑)。それが<激動の70年代アメリカ>に翻案されると、こう変わる・・・という見本みたいな映画。「ヒッピー」に「ドラッグ」、ちょっとしたお笑い部分を担う保安官達と「カントリーソング」がまぶされてる(笑)。

 「スパイダーマン」シリーズですっかり偉くなったサム・ライミもその昔、ホラー映画で商業監督デビューするに際して、低予算でも観客に受ける要素やタイミングを徹底的に研究して演出に当たったそうだが、当時のウェス・クレイヴンも<売れる題材>を探した結果、「処女の泉」をモチーフにした・・・と筆者は邪推する。娯楽映画に必要なおっぱいと暴力シーンが無理なく入れられるし(笑)。但し、今作もドーンと嫌な気分になる。湊かなえ先生の作品ほか、いま流行の「イヤミス」系が好きな人にもお薦め(笑)。

 こう書き進めていくと・・・結果、“レイプ・リベンジものの原点”は「鮮血の美学」ではなくて、ベルイマンの「処女の泉」だった事になる(爆笑)!世間一般には余り伝わってないけど「マカロニウエスタン」の“ルーツ”は黒澤明の「用心棒」だけど、“最初のえせ西部劇”という意味では「荒野の用心棒」じゃないし(←その前にも作られていたけど世界的なヒットがなかっただけ)。映画史研究はホントに・・・深いね〜^^。

 クレイヴンのスタートは・・・映像的にはまだまだこなれていない感はありありだったし「名作の翻案」であったとしても、ホラー映画史において<チェーンソーが武器として使用された>のは今作が最初!レザーフェイスが使うよりも早かったのだ。またショーン・S・カニンガムの「13日の金曜日」シリーズ他に見られるホラー映画の定番パターンのひとつ「学生がエッチな事すると殺される」的な“教訓(今作ではドラッグ)”があるのもいま考えれば画期的!!観終わった後、ドーンと暗くなるのを覚悟の上で、その後のホラー映画を牽引した御大2人が係った今作を観るのも一興でしょう。

 
 最後に・・・ラルフ・マッチオ主演のオリジナル版「ベスト・キッド」シリーズのマーティン・コーヴ(あるいはマーティン・コヴ表記)が「鮮血の美学」では保安官助手役で出てる!!何故か他には余り書かれていないので、ついでに書きました。

 勿論、今作の紹介は性犯罪を助長させる為のものでは決してありませんので御了解下さい。強姦は犯罪ですっ!!