其の510:血と暴力の衝動「甘い鞭」

 ヒッチコックがひたすら“スリラー”を、小津安二郎が繰り返し“家族のドラマ”を追及したことは周知の事実だが(注:両者とも初期においては若干の例外もあり)、石井隆はデビュー作から全くブレることなく“男と女の情念”、“堕ちていきながらも生命の輝きを増してゆく女性”を描き続けている。そんな彼が大石圭の同名小説「甘い鞭(むち)」を製作・脚本・監督。なんと主演は正に今が旬の壇蜜!!・・・ちなみに筆者は決して壇蜜さん目当てではない。石井の前作「フィギュアなあなた」を多忙の余り見逃した一ファンとしては2作続けて見逃すことは出来ない・・・ということで鑑賞した次第(マジでホント)^^。石井隆と「隣のエッチなおねーさん(彼女は今年33歳)」のタッグの結果とは!?ネタばれしないように書きますけど、当然<18禁>なので中学生男子は大人になるまで我慢しようネ♪


 末期がんの母の看病をしながら不妊治療専門医として勤務する32歳の奈緒子(=壇蜜)。だが夜はSMクラブでM嬢・セリカとして働く“2つの顔”があった。実は彼女が17歳の時(=間宮夕貴)、隣人の男性によって拉致監禁され、その一か月後、男を殺害してようやく脱出したという忌まわしい過去があった。奈緒子として昼は不妊治療、夜はセリカとして客を受け入れていく二重生活の中、監禁時の暴行及び脱出直後の両親の言動が日々トラウマとして奈緒子を蝕み始め・・・!


 他人の原作を余り手掛けることのない石井隆だが(元漫画家だしね)・・・あらすじを書いただけでも従来の“石井的要素”が満載の官能サスペンス!!雨、夜、照明、血、暴力、セックス、SM、そして殺人!加えて常連俳優・竹中直人もSMクラブの客のひとりとして勿論出演(笑)。

 冒頭出るタイトルからして、いつもの“斜体文字”から始まる訳だが・・・今回はのっけから膨大なナレーションが全編に渡ってついている(驚)!!<映像派>の彼としては初の試みだろう・・・ところが「私、奈緒子」といいつつ、声が壇蜜でも間宮夕貴でもない喜多嶋舞だったんで、最初はめっちゃ戸惑った(汗)。どうやら原作の解釈やテイストを少々改変したらしいので、その辺りのニュアンスを説明したかったみたい(筆者は原作未読)。

 お話の設定自体は、さほど目新しいものじゃないし、上映時間が2時間近くあるので石井作品初SMものの「花と蛇」1作目みたいに「延々SMのバリエーションみせつけられたら辛いな〜」と思っていたのだが、<現在の奈緒子>と<過去の奈緒子の脱出行>を並行して描くことで中だるみすることなく処理してる。この辺りは更なる石井隆の進化がうかがえて良かった♪レイプや暴力の描写も相変わらず生々しくて(=演出としては「巧い」)目をおおいたくなる程だが。

 「石井作品のヒロイン=脱ぐ」ということで、今回頑張っているのが先述の壇蜜とグラドル間宮夕貴。石井作品は<基本・低予算→撮影日数少ない→結果、俳優を追い込む>となるのだが、壇は鞭打ちからローソク責め、緊縛・・・とSMフルコースをオールヌードで熱演。客の命令でMからSに変貌した時の彼女の表情は・・・鬼気迫るものがあったし❤諏訪太朗には乳揉まれてたけど(笑)。一過性で終わるエロいおねーさんで消費されないことを祈りたい。
 一方、若き日を演じた間宮は冒頭以外、ぜ〜んぶマッパ!血まみれ&M字開脚まで披露して・・・実際はいま何歳だか知らんけど「よくここまで演ったな〜!」と思わず唸ってしまったよ。頑張った!えらいっ!!下手な女優にあげるより彼女たちに来年ヨコハマ映画祭あたりの<新人女優賞>を贈呈してあげて欲しいものだが・・・その結果、映画は全編ボカしかかりまくりだけどネ(苦笑)。

 
 タイトル「甘い鞭」の“真の意味”は実際にご覧頂くとして・・・年齢を重ねても他ジャンルへ移行することなく、演出方法も進化している石井隆は・・・凄い。ここで何度も書いてるけど、映像で<人間(特に女性)の光と影>を追及し続ける石井隆は世界的にも稀有な存在として我々を刺激し続けてくれるだろう。・・・勿論、石井作品のキャラクターの真似をしたら即逮捕されますので御注意あれ。あくまで「大人の娯楽作」としての「虚構」ですから^^。