其の379:反米サスペンス「グリーン・ゾーン」

 テレビで前編観たせいで、ついつい「のだめカンタービレ 最終楽章 後編」を観てしまった。「デスノート」で日テレがやった手法を真似したCX商法にのせられた形(苦笑)。全体的な出来は遥かに「前編」の方が上だけど、中途半端な形で終わった原作漫画(そのあと速攻で「番外編」スタート)より明らかに分かりやすいラストがついてて良かったんちゃう?もっとも今作も連ドラ&2本のSP観てないと全く分からない代物。テレビ屋さんが作った「一見さんお断り」映画であるから、その点はご注意!今秋公開の「SP」も2部作のようだが(せこい!)次は商法にのらないぞ!!!

 そして「プリンス・オブ・ペルシャ」。さすがディズニー&ジェリー・ブラッカイマー作品!わっかりやすいベタな話と怒涛のアクションの連続で「これぞ娯楽映画の王道」!小中学生からIQの低い大人まで御薦めの一作(一応、誉めてます)。にしても「ゾディアック」のジェイク・ギレンホールは何故出演をOKしたのか、謎。高額なギャラにつられたのか??

 
 「シンプルで面白い」映画も勿論ありなんだけど、「大人の男性」はそれだけじゃあ・・・ねぇ(苦笑)。その点、「グリーン・ゾーン」はイラク戦争を題材にした大人向けのハードな娯楽作!ポール・グリーングラス×マット・デイモンによる「ボーン」シリーズの監督・主演コンビ3作目である。


 2003年、バグダッド陥落後。ロイ・ミラー(=デイモン)率いるMET隊は<大量破壊兵器(WMD)>があるという情報のもと出動するも空振り。これが3度目の失敗とあってミラーは情報に誤りがあるのではないかと疑問を抱く。そんなある日、イラク人フレディによる「イラク要人の会合」情報によりガサ入れを行った結果、イラク軍高官を拘束したものの別の部隊によって彼らを奪われてしまう。情報源に疑問を抱くCIA職員と接触したロイは、戦争の原因となった正体不明の情報提供者「マゼラン」とつながっている米政府高官パウンドストーン(=グレッグ・キニア)の妨害に遭いながらも真実に近づいてゆく・・・。

 「グリーン・ゾーン」とは、かつて連合国暫定当局があったバグダッド市内10キロ四方にわたる<安全地帯>のこと(→イラク暫定政権下の正式名称は「インターナショナル・ゾーン」だが「グリーン・ゾーン」の方が一般的)。ワシントン・ポスト紙のジャーナリストによる著書「インペリアル・ライフ・イン・ザ・エメラルド・シティー イラク、グリーンゾーンの真実」を元に「911イラクについての映画を作りたいと考えていた」グリーングラスがアクションを起こし、製作が実現した。当然、モデルとなっている人物もいるのだが(→パウンドストーンは、グリーン・ゾーン連合国暫定当局のヘッドだったポール・ブレアー)グリーングラスはフィクションと断言した上で「あくまでイラクを舞台にしたサスペンス、スリラー」だと語っている。

 グリーングラス作品の特徴といえば「ボーン・スプレマシー」(’04)、「ユナイテッド93」(’06)、「ボーン・アルティメイタム」(’07)でご存知の通り、手持ちによるドキュメンタリータッチの映像&カット割りが異常に速い<ハイパー編集(←筆者勝手に命名)>だが、今作でもその撮影+編集技法は健在!マット・デイモンによると現場ではカメラが複数(最低2台)用意され、そのシーンのカメラの動きを教えられた後、すぐさま「本番!」。フィルムのカメラは10分程度しか撮影出来ないのだが、2台のカメラを交互に回すことで一気にそのシーンを撮影。修正点やアドバイスを受けた上で幾度もそのシーンの撮影を繰り返すという(凄っ)。こうして撮られた膨大なフィルムを細かく刻むことであの独特のリズムが生み出されるというわけだ。

 グリーングラスは英国出身の元ジャーナリスト出身だけあって(題材選びからしても、いかにもって感じ)リアリティーに拘る監督でもある。予算1億ドルの作品にしては(→スペインその他で当時のイラクの街を再現しているせいもあるだろうけど)マット・デイモングレッグ・キニアぐらいしかメジャーな俳優が出ないんだけど、それもそのはず。なんと大半の兵士は実際にイラクやアフガンに行っていたモノホンの米軍兵たち!「兵士たちの立ち居振る舞いがさまになってるなぁ」と思ってたんだけど、そりゃ本物だもん。リアルなはずだわ^^。

 ネタバレになるかもしれないけど・・・観る側の人間としては、<大量破壊兵器(WMD)>が存在しなかったことは周知の事実だし(→ブッシュ政権ネオコンによるでっち上げ、という説は昔からあった)それがオチにくることはハナから予測していたので「サスペンスとしては弱いのではないか?」と少々心配もしていたのだが、パワフルな映像と展開を前に大いに満足した次第。主人公(→ちなみにロイは架空の人物)の宿舎に盗聴器が設置されるとか、就寝中に暗殺者に襲われる・・・とかあった方がいかにも「サスペンス映画」的になったような気がしなくもないが・・・まっ、そこまでやらんともいいか(笑)。グリーングラス曰く「(ロイは)いわば僕自身。僕はWMDの存在を信じていた。この話は、僕自身のジャーニーなのだよ。」今作はアメリカでは反米映画として大分叩かれたようだけど、国の恥部ともいえる内容を映画にするアメリカ(それも娯楽の体裁をとりつつ、テーマはしっかりと語る)は、なんだかんだ言っても懐が深い。日本映画もたま〜に、現実の社会問題や事件を扱う優れた作品があるんだけど、直球(シリアス)で作るから客が入らない・・・。日本の映画人はもっと<見せ方>を勉強しないといけませんな。


 <どうでもいい追記>今夏、プレデターがエイリアン抜きの作品で再登場。その名も「プレデターズ」!!主演は「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディ!何故、この映画に彼が!?・・・やはり高額なギャラか!?

 でもヒット確実の某スタジオ系アニメや某お台場系警察映画第3弾より面白かったりして(笑)。