其の266:市川×石坂「金田一」シリーズ<完>

 1979年5月に公開された市川崑監督によるシリーズ5作目にして最終作となった「病院坂の首縊りの家」。この年には、なんと今作含めて3本もの金田一映画が公開された。ブームの開祖・角川春樹東映とタッグを組んで製作した「悪魔が来りて笛を吹く」(監督は「戦国自衛隊」の斉藤光正。金田一耕助西田敏行!!)と「金田一耕助の冒険」(あの大林宣彦が監督したコメディー!主演にはTVでおなじみ古谷一行)である。
 「悪魔〜」は本編のみならずCMまで横溝正史御大が出演、「あの恐ろしい小説だけは映画にしたくなかった」と口上を述べた。と言いつつ実は1954年に片岡千恵蔵主演で映画化されてるんだけどさ(笑:製作は同じく東映)。このほか御大は「〜冒険」(角川春樹と共演)、「病院坂〜」にも本人役(=金田一小説はホームズ同様、「Y先生」が金田一に聞いた事件を小説に書いているという設定)で出演。素人丸出しの台詞回しながら味のある演技を披露してくれた。


 昭和26年、吉野市(奈良県だろうねぇ)。かつて過ごしたアメリカへ旅行に出ようと考えた金田一石坂浩二)はY先生に挨拶したあと、パスポートの写真を撮影するため本條写真館を訪れた。すると、彼が探偵だと知った写真館の徳兵衛(小沢栄太郎)に「私は殺される!」という尋常ならざる相談を受ける。
 その頃、徳兵衛の息子・直吉は謎のカップルに病院跡の屋敷に呼び出され2人の婚姻写真を撮影する。後日、不審に思った直吉たちがその屋敷を訪ねてみると、なんと屋敷内に写真を撮った男(あおい輝彦)の首が切断され、風鈴状態でぶら下げられていた!!捜査の結果、男と一緒にいた女は大病院を経営する名家、法眼家の主・弥生(佐久間良子)のひとり娘で行方不明になっていた由香利(桜田淳子)らしい・・・。こうして金田一は<最後の事件>へ!!


 「これで最後だぁー!」がキャッチコピーのCMも印象的な今作だが・・・実はこの前年に公開された「未知との遭遇」&「スター・ウォーズ」の公開によって日本を含め世界の映画界は<SFブーム>の真っ只中にあったのだ(邦画もちゃっかり便乗して「惑星大戦争」とか「宇宙からのメッセージ」とか本家公開前に製作して公開したほど)。おまけにTVの「横溝正史シリーズ」に連発される映画・・・。小学生だった筆者も街のポスターを眺めて「まだ、やるんだぁ(=厭きた)」と思ったクチ。
だが勿論、映画自体はこれまで同様、市川の才気あふれる作品である事は言うまでもない。これまで培った数々の演出も全て見られます^^ただ観客の目が宇宙に向いただけ(苦笑:そのおかげで市川御大は前回却下された「病院坂」をフィナーレにシリーズを終わらせる事を東宝にOKさせることが出来たのだろう)。

 
 ファンならご存知のように原作は「野性時代」(角川書店)に昭和50(1975)年12月号から52年9月号まで連載された横溝作品最長の大作。それも昭和28年に事件が発生し、一旦解決するものの、更に48年に新たな悲劇が生まれるという20年がかりの事件なのだ。これは金田一じゃなくても大変(苦笑)。
 さすがにこれをまんま映画に置き換えたら上映時間がいくらあっても足りないので、映画では「昭和26年」に集約して脚色されている。


 原作小説を読まず、映画のみで金田一耕助を知る人にとっては、今作はかなり<奇異な印象>を受けるだろう。タイトルバックはジャズバンドの演奏ベースで、いつもの明朝体のスーパーはないし、舞台は地方とはいえ街の中(原作では東京港区:笑)。無理矢理、以前との<共通項>を考えると、「生首」は「風鈴」になぞらえているから「見立て殺人」はかろうじてある??
 また、キャストには佐久間良子(この後、市川御大の「細雪」に連続登板)や桜田淳子(同じ花の中3トリオ、山口百恵の引退作「古都」の監督も市川だ)、「汚れた英雄」の草刈正雄らが初登場するものの、あおい輝彦小沢栄太郎など「犬神家の一族」の出演者も再度登場(横溝御大もそうだね)。さらに2作目から前作までの脇の方々も総出演するのでまさに大トリ、総括の趣。ただ坂口良子がいないのが残念!
 第1作「犬神家〜」から、この「病院坂〜」までを<1パッケージ>として観ると、都会から孤島までも舞台にした原作本来の「金田一ワールド」ひいては「横溝正史の世界」がより堪能出来ると筆者は思います。


 こうして横溝ブームをうみだした市川・石坂コンビによる金田一耕助シリーズは幕を下ろす(おかげで金田一明智小五郎を抜いて「日本で1番有名な私立探偵」になった)。だが、東宝はこれで全てを<完結>させたわけではなかった(笑)。


 1996年、東宝は市川監督、豊川悦司主演で「夢よ再び」とばかりに「八つ墓村」を製作、公開する。今作は現代劇に脚色した松竹版と異なり、原作通り戦後まもなくの設定に戻したのは良かったけれど・・・いかんせんトヨエツはミスキャストだし、上映時間の問題で原作でも重要な「鍾乳洞」の下りがあってないようなもの。非常にあっさりした映画になってしまった。
「トヨエツ起用」と「上映時間は2時間」という条件を出したのは会社側らしいが、もうこの頃には市川御大も高齢ゆえ、演出にかつてのキレもケレンもなかった。


 余談だが、市川御大は「八つ墓村」以前の1991年、内田康夫原作の「天河伝説殺人事件」(=浅見光彦もの)で久々にミステリーに復帰していたのだが・・・<現代劇>なのに、犯人役が真相を明かすとき「金田一もの」と同じ演技をつけてて(=大仰)「この芝居はないよなぁ」と呆れた覚えがある。


 そして時は2006年ー。市川御大は30年ぶりに石坂浩二を再度主演に起用して「犬神家の一族」をセルフ・リメイク!過去に「ビルマの竪琴」や「黒い十人の女」をリメイクした氏ではあるが、今回はガス・ヴァン・サントヒッチコックの「サイコ」を台詞から構図まで完コピしたのと同じ方式で製作(といっても微妙に違う。嘘だと思う方は見比べて下さい)。
 30年もの期間を置いてのリメイクは世界的に見ても例がない事だと思うが・・・前作にあった良さ(キャスト含む)が・・・消えた(涙)。で岩井俊二とコンビを組んで「本陣殺人事件」を作る作らないと言ってる間に亡くなられてしまった。


 晩年の作品の出来は正直いまいちだったけれど、いま活躍している映像作家やクリエイターたちに多大な影響を与え、筆者に映画の面白さを教えてくれた監督のひとりであることに間違いない。
 市川監督、有難う御座いました。天国でも実験精神溢れる映画を撮って下さい・・・。


 <追記>ふと我が家の棚を見ると、そこには「機動戦士ガンダム 劇場版メモリアルボックス」と共に「金田一耕助の事件匣」(=DVDーBOX)も並んでいる。いつでもガンダム金田一が楽しめる生活は・・・いいなぁと思う今日この頃^^「金田一少年の事件簿BOX」じゃないからね!