其の244:ナイスなアイデア「となり町戦争」

 新人漫画家や著名作家の「盗作」が相次いで発覚しましたが・・・これはいけませんなぁ。確かに日本のみならず漫画も小説も音楽も、そして映画もいつかどこかで観たような聴いたようなものがいま本当に多い。その為「メメント」や「マルコヴィッチの穴」のような奇抜かつ斬新な設定の作品が登場すると、より話題になる気がする(勿論、出来の良さが大前提である事は言うまでもない)。第17回すばる文学賞(’05)を受賞した三崎亜記の同名小説の映画化「となり町戦争」はオリジナリティー溢れる作品のひとつと言えるだろう。大して話題にならなかったが、アイデア溢れる作品は好きだ^^


 某地方某県ー。小さな旅行代理店に勤める北原(江口洋介)は、東京から1年ほど前に舞坂町に転居して来たごく普通の独身男性。そんなある日、ふと見た町の広報紙で舞坂町が近日、隣の森見町と戦争をする事を知る。ほどなく香西(原田知世)と名乗る町役場の職員から連絡があり、北原は訳のわからないまま森見町の「偵察報告」を依頼される。戦争は始まったものの、特に何事もなく穏やかな日々が過ぎていく。だが北原の同僚が戦闘に巻き込まれ死亡した事から状況は一変!本当に戦争が行われている事を北原も自覚する。そして・・・(以下は本編を観てね)!


 ・・・とまぁ、コメディータッチながら非常にブラックな作品。これぞ本当の不条理かつブラック・ユーモア(だから好き:笑)。映画ファンならキューブリックの「博士の異常な愛情」を想起するだろう。現実的にこんな事はありえないし、あったらヤバい(笑)。そんな異常な状況の中、平凡な一市民(=観客の視点)を演じているのが江口洋介。彼の役は訳のわからぬまま戦争に巻き込まれる冴えないサラリーマン。特に熱血でもなく、かといってクールでもない。ごくごく<普通>の男性を好演。だからカッコいい江口を今作で求めちゃダメよん♪
 対するヒロイン、原田知世(全然、昔と変わらねぇ〜:驚)は冷静に<業務>をこなす町役場の職員。感情を余り表に出さない役で、江口とは正反対のキャラクター造形がなされている。当然、2人は噛み合わないから、ここで<笑い>が生ずるわけだ(「爆笑」と言うよりは「クスクス笑い」)。ドラマ「アンフェア」や「のだめカンタービレ」の瑛太原田知世の弟役で出演して、いい味出してます。


 大抵、戦争が起こると男女の仲が否応なく引き裂かれるのが定番だが(「哀愁」とかね)、今作では江口と原田は戦争によって出会う事になる。これがまた新たなパターンで面白い^^物語の後半、2人は森見町へ偵察のため<偽装結婚>までして転居、共同生活をする展開に!ちなみにヒロインがスパイ目的で、好きでもない相手と(=江口は原田に気があるんだけど)結婚するというのはヒッチコックの「汚名」に出てくる設定ではあるのだが。
 中でも風呂から出てきた原田の姿をガン見する江口には笑った!思春期の中学生じゃあるまいし、30過ぎててアレはないだろう(爆笑)。


 誤解されると嫌なのでハッキリ書いておくが、今作にはヘリも戦車も軍隊も・・・具体的な「戦争描写」は一切なし。人の声だったり、銃声のみの表現。あくまで「雰囲気」だけで物語も淡々と進むのだが・・・「実感」できない分、より一層怖い!
今作の江口洋介は<テロとの戦い>の片棒担ぎながらも(自衛隊派遣したり給油したり)戦闘は行っていない(と考えている)<平和ボケ>した全ての日本人の象徴である。ブラック・ユーモアの体裁を取りながらも作者は「何故、人は戦いをやめられないのか?」というガンダム同様のテーマを扱っていて・・・深い。ラストはブラックなだけあって、定番パターンで終わると見せかけつつ、更にひとひねりあって終わるのだが(筆者は何気に予想してた)・・・最初から最後までクスクス笑いながらも常に不気味な影を落とすエンターテイメント作であった。


 <どうでもいい追記>サスペンス作「ナイロビの蜂」も面白かったけど・・・中盤に<謎>は早くもあっさり割れるし(製作者サイドはこの点にそこまでこだわっていないようだが)、主人公の取る行動が割りと<定番パターン>で終始したのが少々残念。展開にもうひとひねり欲しかった。
 加えて先日、<妖怪大好き>京極夏彦先生の「京極堂」シリーズ第2弾「魍魎の匣」(「もうりょうのはこ」と読む)を観たんだけど・・・昭和20年代の東京を再現するために上海のオープンセット(ドラマ「華麗なる一族」でも出てきたとこ)を使ったのは良かったが、ほかの場面まで上海でロケしてるから東京の下町がどう好意的に観ても「胡同(フートン)」(苦笑)。舞台がいきなり中国にワープしたかと錯覚したわ!