其の224:「スモーキン・エース」は実は渋い映画だぜ

 トム・クルーズ主演作「M:i:Ⅲ」の監督に抜擢されるも降板した事で知られる(笑)新鋭ジョー・カーナハン。彼がスパイ映画に代わって手掛けたのが「スモーキン・エース」(’06)である。日本では今年(’07)5月に「スモーキン・エース 暗殺者がいっぱい」の題名で「ポップでお洒落なスタイリッシュ・アクション」として宣伝されましたが・・・実はなかなか乾いたタッチの渋い映画だった(笑)。宣伝部は「キル・ビル」テイストで若者向けに売ろうとしたようだが、出来は「キル・ビル」などより遥かに上!真の映画ファン好み、通好みのクライム・アクション作品だ^^


 ラスベガスのマジシャンでありながらコーザ・ノストラ(=マフィア)に目をかけられ調子にのった「エース」ことイズラエル(ジェレミー・ピベン)が逮捕、保釈された。彼から組織の首領スパラッザに関する重要証言を引き出せると考えたFBI(副長官に扮するのはアンディ・ガルシア)は司法取引を持ちかけるべく捜査官メスナー(ライアン・レイノルズ)とカラザーズ(レイ・リオッタ)の2人をイズラエルが潜伏するホテルへ差し向ける。一方、イズラエルの存在が邪魔になったスパラッザは彼の心臓に100万ドルの賞金をかけ、謎の殺し屋を招聘。イズラエルの弁護士から身柄の保護を依頼された3兄弟(そのひとりがベン・アフレック)に噂を聞きつけた殺し屋たち(合計7名)も各々ホテルへと向う。こうして各自の思惑が入り乱れる壮絶なバトルが勃発する!!


 粗筋を書くと、確かにコメディ・タッチと思われそうな内容(変な空手小僧も出るし)。おまけに登場人物が非常に多い!富野由悠季か、はたまたロバート・アルトマンの作品か(笑)。映像的には「今時」の見せ方ー全盛期のガイ・リッチー作品を彷彿される素早いカッティング。スローにフリーズ(=静止画)、分割画面などあらゆる手法を駆使。中でもカーナハン曰く「(多くの登場人物を紹介する)冒頭のシーンは分かりやすくするために20パターンも編集した」とのこと(驚)!


 ジョー・カーナハンは自身も出演した自主映画「ブラッドガッツ」(’97)で長編映画デビュー。第2作「NARC ナーク」(’02:このクライム・サスペンスも秀逸である)をトム・クルーズが気に入り(トムが「製作総指揮」にクレジットしたことで大手で配給できた)「M:i:Ⅲ」に抜擢したのだが・・・どうやらいろいろあって結果「降板」。「2」を監督したジョン・ウーが後年、自分とトムがイメージする映像はかなりの違いがあり、自分のクリエイティブ度は30%ぐらいだった、と述べているように「プロデューサー」トムは・・・監督にとってはかなり面倒な人物のようだ(苦笑)。カーナハンは自分で脚本も書く人なので(「スモーキン〜」もしかり)相当もめたんだろうね。カーナハンのようにとりわけ「脚本家兼演出家」というのは頭の中で全てのイメージが出来ている。今作でもアドリブ連発のレイ・リオッタ(前作「ナーク」にも出演)は注意されて逆ギレしてるし・・・人とコミュニケーションとるのは難しいもんだね(苦笑)。


 そんな「スパイ映画」の憂さ(!?)を晴らすべく、登場人物は個性的な人物ばかり。ヤク中のネオナチで銃は勿論、チェーンソーで手当たり次第に人を殺しまくる狂犬ブラザー3人のほか、「ルパン三世」も真っ青の変装名人、中国マフィアも壊滅させた凄腕女性コンビ(片方はレズ)に「拷問」の達人・・・まともな奴が誰ひとりとしていない(笑)。そんな下手するとギャグになりかねないキャラクターをカーナハンがリアル(俳優は銃の取り扱いを特訓させられた)かつ丁寧に演出した事で「ギャグなしのハード・アクション」が成立&成功している。


 「映像面」は勿論のこと、何より「プロット」が素晴らしい!こういったジャンルの映画は極力ストーリーをシンプルにしてアクションに重点を置く作品が多いのだが、今作はメスナー捜査官を軸にして(ベン・アフレックはチョイ役なのでファンの方は過剰な期待はしないように)大勢のキャラクターも立てつつ、最後には誰も予想していない<意外な真相>が明らかとなる(前作「ナーク」も同様の趣向)。「スピード感溢れる映像」、「予断を許さない展開」、「個性(アク)の強いキャラ」・・・ジョー・カーナハンの次回作がいまから愉しみだ(見た目はスキンヘッドでごついオッサンなんだけどさ)^^