其の220:哀しきおとぎ話「シザーハンズ」

 ティム・バートンは筆者が好きな監督のひとり。新作は必ず劇場に観に行く。来年は盟友ジョニー・デップとのタッグ作「スウィーニー・トッド」が公開されるので今から楽しみにしている(一時、デップの娘さんの急病で制作が危ぶまれたが)^^そんなバートン、デップ最初のコンビ作が「シザーハンズ」(’90)。バートンが「バットマン」と「バットマン リターンズ」の間に監督したものだが(=自身の企画)これは本当にいい映画!久々に「女性向け」の映画を紹介する気がする(笑)。


 パステルカラーの建ち並ぶ平和な町。化粧品のセールスレディ、ペグ(ダイアン・ウィースト)は山の上にある城で、ハサミの手を持つ人造人間エドワード(ジョニー・デップ)と出会う。実は彼を造った老発明家(ヴィンセント・プライス!)が本来の「手」をつける前に急死してしまったため「ハサミ」の手のまま取り残されてしまったのだ。ペグは彼の身の上に同情し、自宅に連れ帰る。こうしてエドワードはペグの娘キム(ウィノナ・ライダー)らと出会い、普通の人たちとの生活が始まる。ハサミの手で植木や髪をお洒落にカットするエドワードは一躍、町の人気者となるのだが・・・。


 「ゴシック風の城」、「孤独な人造人間」、「ポップでお洒落な家、植木や髪型」・・・ティム・バートンの持つ<資質と趣味>が全面開花したのが「シザーハンズ」(冷静に考えれば、発明家もいくらダミーとはいえ「ハサミの手」は作らないとは思うが:苦笑)。今作ほど彼のプロフィールを反映した作品もないだろう。
 少年時代のバートンは友人が少なく、家のTVで「怪奇映画」を観るのを数少ない趣味としていたそうだ。そんな彼にとってのアイドルが「肉の蝋人形」や「アッシャー家の惨劇」で知られるヴィンセント・プライス(=今作の老発明家役)や後年「スター・ウォーズ」にも出たクリストファー・リーらであった。特に「孤独」をテーマにしたプライス出演作には自身の境遇を投影し、大いに影響されたそう。ちなみに当時の夢は「ゴジラのぬいぐるみ役者になること」(笑)。
 絵が上手かったバートンは社会に出るとディズニー・スタジオにアニメーターとして就職。だがディズニー・タッチの絵になじめず他の部署に回され、ほどなく会社の資金でプライスを起用した短編「ヴィンセント」や少年が死んだ犬を蘇生させる短編映画「フランケンウィニー」を演出する。ディズニー退社後、「フランケン〜」の評判によってワーナーから監督依頼があり初の長編作「ピーウィーの大冒険」につながったわけ。
 「怪奇映画好き」、「絵が巧い(=バートンはイメージボードやキャラクターデザインを必ず自分で書く)」、「孤独な主人公」・・・これらの要素を考えれば「シザーハンズ」はバートンが作るべくして作った映画ということが分かるだろう^^もっとも最初に企画を持ち込んだワーナーは理解してくれず結果、20世紀フォックスで作ることになったわけだが。


 エドワードを演じたジョニー・デップは「エルム街の悪夢」でスクリーン・デビュー後、「プラトーン」の脇役ほかを経てジョン・ウォーターズ監督作「クライ・ベイビー」で初主役。「シザーハンズ」は脚本を読んで「これまで読んだもののなかで最高だった。この役を演じられるチャンスに飛びついた」そうな。まぁ、この当時婚約していたウィノナ・ライダーも同時にキャスティングされていたしなぁ(笑)。こうしてジョニーは「メイクで素顔がほとんど見えない」、「台詞が少ない」という役のためチャップリンの動き方を研究し、スタン・ウィンストンによる特殊メイクを全身に受け「プロ根性」を見せた。


 有名作だから内容の詳細はあえて割愛しますが、今作のポイントは言うなればー「エヴァ」でも語られる「ヤマアラシのジレンマ」。「手がハサミゆえ、触れるものを傷つけてしまう。故に愛する人を抱きしめることもできない」=「コミュニケーションの不在や喪失」。バートンが「人づきあいが苦手な自分」を主人公に投影したのは明らかだ^^「泣ける要素」にバートンのビジュアルセンスが加わった今作はお洒落で、甘く切ない現代のファンタジーとして完成、高く評価されました。
 こうしてデップにとって出世作となった今作の監督バートンはもっとも信頼を寄せる監督となり、以後「エド・ウッド」、「スリーピー・ホロウ」、「チャーリーとチョコレート工場」、人形アニメ「コープス・ブライド」(声の出演)でコンビを組んでいる。で、2人の最新作が冒頭の「スウィーニー・トッド」なわけ。デップ曰く「ティムと一緒に仕事ができるというのは、僕にとって最高の喜びなんだ。」

 
 ついでに書くとバートンは好きなスタッフ、キャストを続けて使う特徴もある。ただの「寂しがり屋」かもしれんが(笑)。「バットマン」シリーズでは前作「ビートルジュース」のマイケル・キートンを起用したし、長年のパートナーだったリサ・マリーは毎回キャスティング。今では奥さんのヘレナ・ボナム・カーターを必ず起用している(笑:あまり知られていないがバートンはバツイチ。ヘレナとは「再婚」となる)。あとプライスのほか、クリストファー・リー(「スリーピー・ホロウ」、「チャーリーとチョコレート工場」)とか「憧れの俳優」にもオファー出す人。その気持ちは・・・筆者もよく分かる(苦笑)。


 最後にバートンのもう一人の盟友といえば音楽のダニー・エルフマン!彼が作曲した「バットマン」のテーマ曲は最高だが、今作でも最高のスコアをバートンに提供している。音楽も聴き逃さないように!