其の218:踊る怪物(笑)「ヤング・フランケンシュタイン」

 アメリカ人は「コメディ」が好きだ。オリジナル作品は勿論のこと、「パロディもの」の作品数は相当数に上るだろう。「トップガン」パロった「ホット・ショット」とかもその流れに入る(日本だと元ネタが分からない人が多いので受けもいまひとつのようだが)。
そんな「パロディもの」を得意にしている監督がメル・ブルックス。この御仁、ヒッチコック作品をパロった「新サイコ」(’77)とか「スター・ウォーズ」のパロディ「スペースボール」(’87)等を作っている。中でも1974年の「ヤング・フランケンシュタイン」はドタバタコメディの傑作!タイトルからも分かるように「フランケンシュタイン」のパロディ(勘違いしている人が多いけど「フランケンシュタイン」とは怪物を創った博士の名前であって、怪物自身には名前はないのでご注意あれ)。余り知られていないけど、チョイ役で「フレンチ・コネクション」のジーン・ハックマンも出演してます^^


 時は現代(映画公開時の1970年代)。アメリカに住むフランケンシュタイン博士のひ孫で脳外科の権威フレデリックジーン・ワイルダー)は怪物を創った先祖を嫌悪していた。だが、祖父の遺言によって一路トランシルバニアへ行くことに。現地にはいかにも・・・な城と召使のイゴールならぬアイゴール(笑:演じるのはマーティ・フェルドマン)らが待っていた。ある夜、ひょんなことから先祖が怪物を創りだした記録を発見!何故か急に自分も真似して人造人間を作ることに(笑)。アイゴールのミスによって「使用禁止」の脳を入れた怪物は城から逃げ出し、騒動を巻き起こす・・・。


 ボリス・カーロフが演じたモノクロ映画の「フランケンシュタイン」シリーズは今観ても怖いが、主演のジーン・ワイルダーも幼少時代に同作品を観てトラウマを受けたそうで、それを思い出して脚本を書いたのが「ヤング・フランケンシュタイン」である(こういう「引き出し」が創作者には不可欠なのだ!最近の若いディレクターは「引き出し」のない奴多すぎ)。それに手を加えて演出したのがメル・ブルックス。今作はコメディ映画の両雄ががっちりと手を組んで製作された。


 ワイルダーにトラウマを与えたオリジナル版(メアリー・シェリーの原作小説に近い話が観たければロバート・デ・ニーロが怪物役を演じた「フランケンシュタイン」の方を観てね)の映像表現をブルックスも踏襲。映画は冒頭からモノクロで統一、「ドイツ表現主義」的な光と影が彩られている(ブルックスは「吸血鬼ノスフェラトゥ」で知られるフリードリヒ・ウィルヘルム・ムルナウ監督を尊敬してるそうで後年、レスリー・ニールセン主演で「ドラキュラ」も監督している)。勿論、出てくる「城」も博士の「研究室」も予想通りベタベタで雰囲気満点(笑)。セットには予算かかってます^^


 ワイルダー演じる博士は当初はインテリ風ながら、次第にマッド・サイエンティストに変身!大仰な台詞回しや演技で笑わせてくれる。加えて「怪物」はもとより(カーロフよりもプリティよん)マーティ・フェルドマンらがいかにもな演技でボケまくる(=下ネタもあり)。当然、撮影中は笑いが絶えず、何度もNG(苦笑)。
中でも最大の見所は博士と怪物が共にミュージカルを披露するところ!怪物が博士と共にタップを踏んで歌も歌う(爆笑)。屈指の名場面だがー撮影前にはこのシーンを「いらない」と主張するブルックスワイルダーで意見が割れたそうだ。頑張ったワイルダー偉い^^


 オリジナル版の名シーンのパロディも取り入れつつ物語は展開していきますが、原作小説や他の「フランケン」映画が「悲劇」で終わるのは周知の事実。だが、今作では仰天の展開と爆笑のエンディングが待っている(ホント)!「喜劇は真剣に作らないと笑えない」のは鉄則ですが、スタッフ・キャストも楽しみつつ観客も楽しませてくれる「ヤング・フランケンシュタイン」。元を知っていれば更に楽しめますがこれを観ないのは勿体ない!!