其の172:タイトル長いぞ「コックと泥棒、その妻と愛人」

 久々に<最近聞かなくなった監督シリーズ>を。イギリス人監督ピーター・グリーナウェイは一時期高い人気を誇っていました。「英国式庭園殺人事件」、「ZOO」、「プロスペローの本」、「ベイビー・オブ・マコン」・・・。中でも代表作且つ日本における彼のブレイク作といえば「コックと泥棒、その妻と愛人」(1989)です。音楽はマイケル・ナイマン(「ピアノ・レッスン」)、衣装はゴルチエとスタッフも一流どころが集結!ちなみにキャストには「レザボア・ドッグス」や「海の上のピアニスト」のティム・ロスが出てます(当時まだ脇役)。


 イギリスにあるフランス料理店「ル・オランデーズ」。ここのオーナーは泥棒組織のリーダー・アルバートマイケル・ガンボン)。彼は妻ジョージーナ(ヘレン・ミレン)プラス子分たちと共に毎晩店に現れ下品な言動をとっていた。フランス人シェフ・リチャード(リシャール・ボーランジェ)はそんな状況の中、彼らの為の料理作りに精を出している。そんなある日の<木曜日>。ジョージーナは常連客のマイケル(アラン・ハワード)にシンパシーを感じ(理由は不明)化粧室で抱き合う。日々、関係が深まる2人。だが、それから数日後、ひょんな事から妻の浮気をアルバートが知ってしまう・・・。


 長いタイトルの意味が分かるように粗筋を書きましたが(疲)、まずなにより目を引かれるのがその映像美!まるでフェリーニのような巨大なセットに、部屋によって使い分けられる色彩(レストラン内は赤、化粧室は白、厨房は緑色)。頻繁に繰り返されるドリー・ショット(横移動)・・・。まるで舞台劇を観るかのようだ。グリーナウェイの審美眼がそこかしこに感じられる。


 役者陣も下品なマイケル・ガンボンを筆頭に、いま話題の「クイーン」でエリザベス女王を完コピしたヘレン・ミレンが今作では妖艶な演技を披露!ヌードまで見せます。この人、若い時にかの悪名高きボブ・グッチョーネによる「カリギュラ」にも出演してる(笑)!「人に歴史あり」・・・ですな。テイム・ロスは泥棒集団のひとりに扮して、食事中○○を吐く(苦笑)。ちょっと、この場面は食事しながらは観られないなぁ。


 「難解」と言われるグリーナウェイ作品ですが、今作は比較的狙いが分かりやすい。人間の<本能>でもある「食欲」に「性欲」。「男」と「女」。「集団」と「個」。「善」と「悪」・・・。主な舞台となる「レストラン」で本能を露にする様子を、後半の「書庫」ではインテリジェンスな部分をー人間の持つ本質や社会性を場に封じ込めて描こうとしているのだ。
 最後には想像を絶する強烈な<ある料理>が登場!!ネタバレになるので詳しくは書きませんがー先述の筆者の推測はこのシーンを観れば納得してもらえるでしょう。絶対にグリーナウェイは某フェリーニ映画を参考にした筈(さて、どの作品でしょう?各自、考えてみてね)。


 今作以降も次々と作品を発表したグリーナウェイですが、日本で撮影した「ピーター・グリーナウェイ枕草子」(1996)は暴走作!で、3年後に発表した「81/2の女たち」(もろタイトルまでフェリーニ!)より沈黙が続いている。貴重なビジュアリストだけに早く<復活>して頂きたいものだ。


 余談:いよいよ5月に開催される「第60回カンヌ国際映画祭」ですがー今年のコンペ部門にはデビッド・フィンチャーの「ゾディアック(日本6月公開予定)」やコーエン兄弟の新作を始め、クエンティン・タランティーノ最新作「デス・プルーフロバート・ロドリゲスの作品とあわせた「グラインドハウス」の一編)」が顔を揃えている(日本公開未定:はよ決めんかい)!こちらの受賞発表も今から楽しみだ^^