其の140:セオリー逃れの名作「地獄の逃避行」

 一般的にタイトルに「地獄」と付くと、大抵は一部を除いて<B級>以下の作品である(「地獄のヒーロー」とか:笑)。だが、テレンス・マリック監督作「地獄の逃避行」は<地獄>がつくものの、そのセオリーから逃れた数少ない例外的名作(原題は「バッド・ランズ」)!犯罪者カップルを扱った、ある意味「青春映画」であり、優れた「ロード・ムービー」でもある(1973年制作、日本未公開)。

 
 物語は1950年代のアメリカ。ジェームス・ディーンを気取る25歳のキット(マーティン・シーン)は、父親と2人で暮らす15歳のホリー(シシー・スペイセク)をナンパ。2人はつきあうようになる。だが、彼女の父(ペキンパー作品の常連、ウォーレン・オーツ!)に交際を反対され、プッツンしたキットは彼をあっさり射殺!ホリーと逃亡&放浪&殺人の旅を始めるのだが・・・。


 一見、ストーリー・ラインはタランティーノが脚本を書いた「ナチュラル・ボーン・キラーズ」と似ているが(監督したオリバー・ストーンの演出とはまるで異なる)、この作品は実際に起こった連続殺人事件「スタークウェザー=フューゲート事件」をベースにした<実話>の映画化なのだ!1958年、ゴミ収集業の青年チャールズ・スタークウェザー(当時19歳)が、彼女であるカリル・フューゲート(当時14歳)を連れてワイオミング州からネブラスカ州を逃げ回り、1週間そこそこの間に10人もの人々を殺害した事件である。<あらすじ>で書いたように、映画は実際の人物とは名前や年齢のほか微妙に変更している(実際には「ホリー」のモデルは片親ではなかった、とか)。


 キット役はエミリオ・エステベスチャーリー・シーンの父親マーティン・シーン。後に「地獄の黙示録」に主演する(邦題だけで考えると「地獄」に縁がある人だなぁ:笑)。大人のようでいて、言動が子供だったりする主人公を巧演!若い時は長男のエミリオに似ている(笑)。
 ホリー役のシシー・スペイセクも未だ「キャリー」出演前の無名時代。勿論、この時15歳ではない。20歳過ぎてましたがー10代に見えるから恐ろしい(苦笑)。蛇足ながら<実在の犯罪カップル>と2人の容姿がまるで似ていない事も付記しておく(笑)。


 これで「監督デビュー」を飾ったのが(製作・脚本も手がけた)テレンス・マリック。「映画のネタが欲しかったら新聞を読め」とは若松孝二監督の言葉だったと記憶しているが(違ったらゴメンね)彼がその言葉通りに今作を企画したかは・・・不明(笑)。
 彼の作品はその<映像の美しさ>に定評があるがー「地獄の逃避行」でも砂漠や夕日等の<風景映像>が美しい!よくデビュー作には、その監督の資質が現れるというが<映像派>の面目躍如といえよう。


 この作品が高く評価されたマリック(注:「ハンド・パワー」の人とは無関係)だが、このあと第2作「天国の日々」を発表したあとー長らく消息の分からない<伝説の監督>となる。1998年にな、なんと20年ぶりにメガホンをとった戦争大作「シン・レッド・ライン」で奇跡の復活!!やはり<風景映像>はとても綺麗だった。彼が監督するとあって大勢のハリウッドスターが出演を希望した事でも話題となる(肝心の内容は・・・う〜ん)。2005年には新作「ニュー・ワールド」(ディズニー映画にもなった「ポカホンタス」の話)を撮り、今日に至る。今後、マリックが<スターがこぞって出演を希望する>故ロバート・アルトマンのようになるのか否か・・・その動向から目が離せない。