其の290:今後に期待「20世紀少年 第1章」

 ・・・すっかり多忙な身となってしまいましたが、それでも映画は観る!
 現在ヒット中の映画「20世紀少年 第1章」は漫画家・浦沢直樹(「YAWARA!」)による傑作長編漫画の実写映画化である。浦沢漫画の素晴らしさは幾つもあるが、画力は勿論のこと、魅力的なキャラクター、設定の妙に加え場面展開が他の作家より際立って巧いところだろう。本当にいいところまで話が進むと、ポーンと場面が飛んでサイドの話になるため、続きが気になって仕方がなくなるのだ(=読者殺し)。「20世紀〜」も浦沢の場面転換、構成の巧みさが十分に楽しめる一作(当時、筆者は連載を毎週リアルタイムで読んでいた)。そんな長大かつ複雑なストーリーを60億円もの予算をかけてハナから3部作で作る試みは日本初(=「デスノート」2部作でアテた日テレらしい発想)!さて、その内容とは・・・。


 現在公開中なので<あらすじ>を必要最低限のみ大雑把に書くと・・・1997年、かつてはロッカーを目指し、音楽活動に精を出していたものの挫折してコンビニの店長として暮らしていたケンヂ(唐沢寿明)の周りに「ともだち」と呼ばれる謎の教祖が率いるカルト教団の影が忍び寄る。どうやら彼らはケンヂが少年の頃、未来を創造して書いた「よげんの書」を現実に行おうとしているらしい。だが、その内容を知っているのは当時の一部の仲間のみ・・・。「よげんの書」では人類は2000年の大晦日に「滅亡」することになっている。ケンヂ、オッチョ(豊川悦司)、ユキジ(常盤貴子)らかつての仲間たちが地球を救うために立ち上がるのだがー!?


 映画の正式タイトルは「本格科学冒険映画 20世紀少年」。T.REXの名ナンバー「20th Century Boy」からの引用だが、作品には<過ぎし日の20世紀(=日本でいえば「昭和」だ)>のオマージュに溢れている。「空き地」に作る「秘密基地」に、「日活ロマンポルノ」のポスター、「駄菓子屋」に「大阪万博」、「人類初の月面着陸」・・・。いや〜、懐かしいねぇ!ケンヂたちは筆者よりウン歳上の設定だが、全てが筆者世代にも共通した内容ばかり!空き地で基地を作って過ごしたことのない今の少年少女たちは可哀想だわ(=セットは昔の名残を残す愛知県江南や関東近郊に頑張って作ったそうな)。
 そんな当時といえば公害が社会問題化していたこともあり「ノストラダムスの大予言」は信憑性を持って語られていたし(筆者も1999年に人類は滅亡すると思ってた)漫画やアニメ、ヒーローものといえば「悪の組織」が「地球を制服する」と相場が決まっていた。だからケンヂたちが書いた内容は、我々にとっては普通のことだったのよ。そういう意味でいえば、当時の日本にケンヂたちは大勢いたわけ。勿論、それを実行に移す奴がいたら恐ろしいけど(苦笑)。この教団にかつての「オウム真理教」を想起する人も多々いると思うが、筆者は映画評論家ではないのであえて書きません。真面目な考察が読みたい人は「キネマ旬報」あたりをどうぞ(笑)!


 荒筋にも一部書いたようにキャストは超豪華!唐沢、豊川、常盤のほか香川照之宇梶剛士生瀬勝久石橋蓮司佐野史郎黒木瞳までもが終結。で、みんな何気に原作のキャラに似てる(浦沢は今回、共同脚本のほかキャスティングにも関与)。ケンヂは・・・唐沢より、もうちょい間の抜けた顔の人でも良かったけど。加えてタカアンドトシオリエンタルラジオ等「お笑い」を加えるのは70年代東映作品を意識してのことだろう(=シリアスな作品でも由利徹とか入れて笑いをとる)。


 監督は近年売れっ子の堤幸彦。この堤さんはTV界の出身で、ドラマを撮るようになってからは初期の「金田一少年の事件簿」など驚異のカメラワーク(本当に凄かった!!)を駆使して(&細かいギャグ)独自の世界を築き上げた<天才>なのだが・・・何故か、映画になると普通というか、ちょっと落ち着きがなくなるんだよね。実に惜しい・・・。その彼がこの超大作を手掛けるというので期待半分不安半分だったが・・・う〜ん、まぁ及第点といったところか。「スシ王子」と吉永小百合主演作の掛け持ちでテンパった影響が何気にあったかも(苦笑)。


 本人曰く「細かい自分なりのギャグを入れたけど、全てカットした。この作品の前には全て消し飛んだ」と語っているが、原作自体細かいネタがいっぱいなんだから(例:デブの双子「ヤン坊とマー坊」は、かつて放送されていた「ヤンマー・ディーゼル」のCMから。ケンヂの姉の恋人・諸星壇は言わずもがなの「ウルトラセブン」。刑事の「チョーさん」と「ヤマさん」は「太陽にほえろ!」。そして教団に誘拐される「敷島博士」と、その教え子「金田正太郎」は勿論「鉄人28号」!)これ以上、加えなくてもよろし。にしても、映画館では笑いのひとつも起きなかったが・・・みんな元ネタ知らないのかしら??
 

 撮影に際しては台本に原作のコマを貼り付けて「完コピ」を目指したそうだが・・・浦沢漫画は小説の「行間」ならぬ「コマ間」が読めないといけない漫画でもある。ところが堤は演技の出来る人を大勢集めたにも関わらず、テレビドラマのテンポで全編、早めにカットを割っていった・・・。なんせ「1997年」をベースに「1969年」、「2000年」、そしてちょろっと「2015年」と様々な年代が交差する複雑な構成なので、ドラマ部分はもう少しじっくり見せた方が良かったと思う。おそらく原作も未見の人はついていくのに精一杯だろう。


 続く「第2章」は来年の1月末公開予定だが(先日、現場で撤収の際に事故が起きたそうだが、撮影に影響はないようだ)ここからラスト「第3章」にかけて原作から徐々に変更していくという。本当なら映画ではなく、年末にテレ東あたりで半日がかりで放送して欲しいぐらいなのだが(笑)今作は「序破急」の「序」にあたる部分なので、今後の展開を見守りたいと思う。まぁ、そんなに急に演出方針が変わるわけはないだろうけど(苦笑)。



 <どうでもいい追記>先日開催されたヴェネチア国際映画祭で邦画は金獅子賞、獲れませんでしたが・・・まぁ、コンペに3作品も選ばれただけでも凄いことじゃないですか!オリンピックみたいに受賞、受賞と煽るのはやめましょ。「ポニョ」と「スカイ・クロラ」はいざ知らず「アキレスと亀」は絶対、映画館に観に行きます。わたくし、タケシストなもので^^。にしても・・・エヴァの新劇場版の続きは一体どうなったんや??お蔵か!?