其の574:ヴァーホーヴェン史劇「グレート・ウォリアーズ」

 暑いっすなぁ・・・確実に筆者が少年時代より暑い夏!もう7月も終わるけど、これが8月になったら・・・(ゾッ)!地球温暖化はどこまで進むのだろうか・・・?!

 オランダ出身の鬼才ポール・ヴァーホーヴェン監督、初のハリウッド資本による作品が「グレート・ウォリアーズ 欲望の剣」(’85:アメリカ=オランダ=スペイン合作)。我が国では<劇場未公開>で“ビデオスルー”となったので「ロボコップ」(’87)が最初のハリウッド作だと思っている人がいるけれど・・・違うのよん♪ヴァイオレンスとエロ描写で名を馳せた彼の知る人ぞ知る作品が先日、ようやくDVD化!メーカーさん・・・ソフト化するの遅いって!!


 1501年、戦乱が続く西ヨーロッパ。領主アーノルフィニは奪われた城を取り戻すため傭兵たちを集めた。雇われたマーチン(=ルトガー・ハウアー)らの活躍で奪還に成功したものの、アーノルフィニは約束の報酬を支払わない上、武力によって彼らを僻地へと追放する。復讐を誓ったマーチン達はアーノルフィニの下へ向かう荷馬車の一団を襲う。そこにはアーノルフィニの息子・スティーブンと結婚するためにやってきたアグネス姫(=ジェニファー・ジェイソン・リー)が乗っていた。一行は彼女を誘拐、最寄りにあった城を力づくで奪い取る。アグネスを犯し、自分の女にするマーチン。その城にアグネスとマーチンらがいることを知ったスティーブンは、軍隊を率いて城へ攻撃を開始するのだが・・・!?


 オランダで神をも怖れぬ過激な作品を次々と発表し、ヒットはするものの同時に激しい非難に晒されていたポール・ヴァーホーヴェン。そんな彼が製作費をハリウッドに求めた初作品(←声をかけたのは、かのスピルバーグ)は中世ヨーロッパを舞台に、良くいえば“人間臭い”、悪くいえば“モラルのかけらもない”人々が欲望のままに行動するハードな活劇作品(→だから邦題のサブタイトルが“欲望の剣”なのね)。ファンタジー的な中世ヨーロッパのイメージや“騎士道精神”は今作にはまるでなし(笑)。

 脚本も自ら書いてる(共同脚本)ヴァーホーヴェン先生だけに若い修道尼が頭バックリ斬られたり、アグネスとスティーブンが会話する際に、頭上には縛り首になった腐乱死体がぶら下がってるわ、そのアグネスを集団レイプするわ・・・ともうヤリたい放題!後の作品知ってると、もっとチャンバラシーンで手足スパスパ、生首ゴ〜ロゴロ・・・なんて場面があっても良かった気がしたのは・・・筆者だけか(笑)。ちょこっと書いただけでも凄い&面白い作品なのだが、ヴァーホーヴェンにとっては大変な難産の結果、完成した作品らしい。

 「金は出すけど、口も出す」というハリウッド側はヴァーホーヴェンの構想に対して「作品にロマンス要素を絶対に入れろ」と要求。出資した母国オランダ、スペインの出資者もあれこれ内容に口を出した。これがキャスティングにまで話が及び、かねてからコンビを組んでいた(「危険な愛」、「SPETTERS/スペッターズ」ほか)盟友ルトガー・ハウアー、「初体験/リッジモント・ハイ」でブレイクした演技派ジェニファー・ジェイソン・リーほか国際色豊かな俳優陣となったのだが・・・ヴァーホーヴェン的にはこれがまた更なる悩みの種を産むこととなる。

 映画を観ればわかる通り、結構な量の場面がオープンロケのシーン(どこで撮ったか知らんが・・・マカロニ・ウエスタンも撮ってたスペインのどこかちゃう?)。大勢の俳優陣は毎晩のようにビーチでパーティーを開催、アルコールとドラッグ(!)でへろへろになり現場での混乱を加速させたという。いや〜・・・ヨーロッパの俳優達らしいエピソードだ(笑)。

 主演のルトガー・ハウアーは先述の通り、既にヴァーホーヴェン作品に何本も出演していたのだが、今作撮影時点ではシルヴェスター・スタローン主演の「ナイトホークス」(’81)で本格的なハリウッドデビューを果たし、翌年、リドリー・スコットの「ブレードランナー」でレプリカントを演じ<国際的スター>となっていた頃(ちなみに「ヒッチャー」はこの後)。そんな状況もあってハウアーは“好感度の高いヒーロー然としたキャラクター”を演じたかった・・・らしい。かつてのヴァーホーヴェン作品ではひどい男をさんざん演じてきたので今更という気もするけど(苦笑)。でも、そんな優等生キャラは当然ヴァーホーヴェン作品には登場しないので(笑)、2人はことある毎に対立。クランクアップの時には修復不可能な関係に(以後、ハウアーとヴァーホーヴェンは一切一緒に仕事せず)!ヴァーホーヴェンが現場で怒鳴りまくることは有名なお話なので・・・その時の修羅場が見える。筆者には(笑)。その反面、ジェニファー・ジェイソン・リーは“ヒロイン”でありながら邪悪かつ性に奔放なビッチキャラ(乳出しは勿論、全裸シーン多々あり)で<ヴァーホーヴェン・ワールドキャラ>を見事に演じてくれている。

 勇壮なテーマ曲に反して、人間の暗黒面がたっぷり描かれたエグい歴史劇ではありますが(まだまだ本篇にはここで書いていない「ここまでやるか!」描写あり❤)撮影監督はのちに「スピード」で監督デビューする名手ヤン・デ・ボン(←彼もヴァーホーヴェン組のひとり)だし、スタッフ・キャストは超一流。ヴァーホーヴェンファンなら当然押さえておきたい一作です。オランダに戻ってから寡作になっちゃったけど(多分、やりたい企画があっても製作費が集まりにくいのだろう)早いとこ「トリック」に続くヴァーホーヴェンの新作が観たい^^!
           

 ちなみに今作のテレビ放送時のタイトルは「炎のグレートコマンド/地獄城の大冒険」。すごい邦題の上、内容が内容だけにカットされまくってたと思うが(苦笑)、映画公開時のタイトルを変えちゃうと別の映画かと思っちゃうから(ソフト化する時に変わるのも同様)、そろそろこのパターンは止めて頂きたいものだ。