其の573:ハリウッド女優の真実「愛と憎しみの伝説」

 例年より早く関東は梅雨明けということで。暑い日が続きますなぁ・・・(溜息)。

 今回はそんな暑さも吹き飛ばす実話の映画化「愛と憎しみの伝説」(’81・米)をご紹介(ある意味本当)。これ日本未公開作ながら第2回ゴールデンラズベリー賞(通称・ラジー賞)で作品賞、脚本賞、女優賞など5部門を受賞したんで、その昔から映画オタクの間では“カルト映画”として知られていた(→後年、同賞の第10回記念賞である「1980年代最低作品賞」も受賞)。それがDVDになるとは・・・いい時代になったものだ(笑)。とはいっても、これはなかなか面白い映画ですよ!そこいらの「底抜け超大作」とは一味もふた味も違います。


 「グランド・ホテル」(’32)や「雨」(’32)等の作品でスターの道をかけ上がったハリウッド女優、ジョーン・クロフォード(=演じるのはフェイ・ダナウェイ)。しかし、年をとり“落ち目”と呼ばれるようになった彼女は、世間に“良い母親”のイメージを印象づけるため子供を欲しいと思うようになる。だが過去の幾度もの流産により不妊体質だった事で<養子>を貰うことに。職業に加え、独身などを理由に縁組みを拒否されるものの、恋人で弁護士のグレッグの手配で、女児クリスティーナを養女として迎え入れる。ほどなくクリストファーという男児も養子にし、イメージアップに成功したジョーンだったが、出入りの激しい映画業界で生き残るべく奮闘するストレスで、彼女は次第にクリスティーナを虐待し始めて・・・!


 ジョーン・クロフォードの死後、養女クリスティーナが書いた暴露本「親愛なるマミー」が原作(出版直後は彼女を知る俳優仲間たちから非難の声が挙がったようだが、「その様子を見たことがある」という俳優たちに加え、ジョーンのアシスタントが本の内容を認めたことで騒ぎも収まったようですな)。とにかく彼女が子供にヒス起こして手あげる様子が凄いのよ・・・(死ぬ最期の最期まであんな仕打ちされたら暴露本の一冊も書きたくなるわ)。いま現在の目で見ると、ちょっと「大映ドラマ」みたいなんだけど(笑)、展開が凄くて次にどうなるのか目が離せなくなる。勿論、お子さんのいる親御さんは真似したらあかんよ(言うまでもなく捕まります)!!!

 もっとも、いまの若い人はジョーンの存在自体を知らないと思うんで超ざっくり説明しますと→→→ジョーン・クロフォード(1904〜1977)は1945年、「ミルドレッド・ピアース」(注:日本では未公開ながら「深夜の銃声」というタイトルがつけられている)でアカデミー主演女優賞に輝いたバリバリの<オスカー女優>!!この時のヘアスタイルと衣装を「ブレードランナー」(’82)でショーン・ヤングがまんまやっている・・・のは映画オタク的トリビア(笑)。メジャーなところでは「大砂塵」(’54)や「何がジェーンに起ったか?」(’62)あたりですかね。「何が〜」では妹にしばかれる役だったけど、実生活では養女をしばきにしばいていたわけだ(苦笑)。

 監督は以前、ここのブログでも紹介した不条理作「泳ぐひと」(’68)や西部劇「ドク・ホリデイ」(’71)で知られるフランク・ペリー。実際のジョーンは4人ほど養子縁組したようだが、そこは映画的に分かりやすいよう2人に整理。<実話の映画化>というとこで、堂々と正攻法な演出を披露している。中でも冒頭、自宅での起床から到着した撮影スタジオで出番の声がかかるまでクロフォードの顔を観客に一切みせない方法は、のっけから今作がただならぬ内容じゃないことを観客に暗示して・・・ちょいヒッチコックの「見知らぬ乗客」を彷彿とさせて良かった(パクった?!)^^

 でも、やっぱり今作最大の見所はフェイ・ダナウェイの怪演!!書くまでもなく彼女は「俺たちに明日はない」(’67)や「チャイナタウン」(’74)で知られる名女優であり、「ネットワーク」(’76)でアカデミー主演女優賞も獲得している演技派。そんな彼女がジョーン・クロフォードをビジュアル含めて“完コピ”(おそらく仕草や話し方に至るまで徹底してリサーチした上で演技に取り入れたであろう)!!筆者も最初は「メイクを似せたフェイ・ダナウェイ」という感じで観ていたけど、終盤にはジョーン・クロフォードにしか見えなくなってきた(怖)。大熱演・・・としか言いようがない!もう鬼ですよ、鬼(苦笑)。

 映画はヒットしたものの監督、キャストの頑張りも空しくラジー賞の栄冠に輝いた原因は“批評家たちの酷評”。町山智浩著「トラウマ映画館」(集英社刊)によれば、アメリカでもっとも権威のあった評論家、故ロジャー・エバートなどは今作をボロクソにけなしたそうな。町山氏は“映画批評家たちがこの映画を嫌ったのは、完膚なきまでにハリウッドの夢を破壊してみせたからだろう”と推察しているが・・・エバートだって「ワイルド・パーティー」の脚本でアメリカのショービジネスの実態を揶揄してたじゃない!ハリウッドなんて昔からいろいろある魑魅魍魎の世界だし、ちょっと批判の矛先が違う気がしてならないが・・・もしかしてエバートはジョーン・クロフォードのファンだったかもしれんな。

 
 幸い(?)現在ではアメリカでもカルト作として人気を得ているという今作、日本でも児童虐待事件が後を絶たない今日この頃、我が国の傑作「鬼畜」と併せて再鑑賞&再評価してほしいところだ。



 <どうでもいい追記>雑誌「ストリート・ミニ2015.8月増刊号」として出た「DVD&ブルーレイ特集」は“ソフトがない!!ワケあり映画36”と題された興味深い内容の一冊。ところが冒頭、キャイ〜ン天野ひろゆきの映画愛を綴ったコーナーで「好きなコメディ映画」の1本として紹介されているのが“「ホテル」監督・三谷幸喜”の文字。それの正しいタイトルは「THE有頂天ホテル」だろっ!・・・誰が書いたのか知らんけど、その程度はキチンと書いて欲しかった。本の頭から誤表記があると、本全体の信用度が落ちますので。