其の640:また8月が来た・・・市川版「野火」

 またまた間が空いてしまいました・・・決して遊んでいる訳ではないのですが・・・(でも反省)。
 そんな中、今頃になってあえて観ましたよ!「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」。「スター・ウォーズ」史上初のスピンオフにして、“全作リアルタイム世代”の筆者に言わせると、もっともファンが盛り上がらなかった1作(笑)。
 肝心の出来は・・・詳細は避けるけど「ビミョー」な感じでしたな。新しい惑星や過去に出てないトルーパーとかバンバン出てきて(←時系列がエピソード「3」と「4」の間ってこと、分かってるのか??)わざわざ映画作る以上、(なんとか、あるいは無理矢理)世界観を広げようと意識した事は分かるけど・・・ラストの地上戦の描き方とか勿体ない部分が多々あったと思う。ハナからオチが決まってる分、作劇の上で不利だったとは思うけど・・・いや〜、ホントに勿体ない!!
 ●ィ●ニーさんも高い金払って買収した分、元とろうと思って考えたスピンオフだろうけど(→結果、大幅に予想を下回る興収)、今年の年末に本シリーズの8本目やるんだから(でも邦題のサブタイトルは「最後のジェダイ」・・・9本目のタイトルはどうする?!)メインの方に集中して頑張って欲しい。そんな状況ながら、このスピンオフも第2弾が予定されていて、ハン・ソロの若い時をやるとか(苦笑)。さらに客が入らない気がするのは筆者だけかしら!?あと、これのパンフレット2種類あって、両方買っておいたんだけど・・・表紙以外、中身が全く同じだった(怒)!!この商売は次はやめてほしい!

 
 ここからが<本題>、です。8月といえば、もう間もなく「終戦記念日」・・・です。敗戦国の日本人にとって一番辛い時期(今日は広島に原爆が投下された日だ)・・・。そんな中、今回紹介するのは筆者贔屓の監督の一人、市川崑監督の「野火」(’59)。昨今の「愛する人を守る為に戦う」な〜んてお題目はなし。<現在>からの視点もなし(笑:最近の戦争映画、このパターン多いよね)!これがリアルな戦争の姿だ!!塚本晋也監督版の方ではないので、この先、このブログを読み進める方はご注意あれ☆

 
 太平洋戦争末期、フィリピン戦線のレイテ島ー。田村(=いま話題の人のお父さん・船越英二)は肺病の為に所属部隊を追われ、向かった野戦病院からは食糧不足を理由に入院を拒否される。仕方なく病院の小屋の外で敗走している兵士達と過ごす田村。だが、米軍の砲撃で病院は倒壊。田村はひとり逃走する。海辺の廃村で塩を手に入れたものの食べ物はなく、草や蛭を食べて生命をつなぐ田村。やがて生き別れた旧知の永松(=ミッキー・カーチス)らと再会する。2人は“猿”を殺しては、その肉を食べて生き延びて言た、というのだが・・・その“猿”とは“日本兵”の事だった!!この事実を知った田村は・・・!?

 
 大岡昇平が1951年に発表した同名小説の映画化(「野火」とは野原の枯れ草を焼く火の事)。作者のフィリピンでの戦争体験を基に、人肉を食う(カニバリズム)極限状態の中で神を認識する姿が描かれている・・・のだが、原作をイジる事にかけては定評のある市川崑、神については完全にスルー(市川崑の妻にして脚本の和田夏十曰く「(作者の)神がよくわからなかった」との事)!原作のラストのシチュエーションも丸っきり無し。カニバリズムも近年の「グリーン・インフェルノ」のようにモロに描いていないので(おまけに今作はモノクロ)、心臓が弱い方も安心してご覧頂けます^^。

 原作の神をカットした映画が描くのは→→→飢餓状態で島に取り残された無残な日本兵の姿!出てくる日本兵は・・・大半がガ〜リガリ。これを演じる為、主人公を演じた船越英二は2週間近く絶食、激やせして役に望んだ。その結果、クランクイン初日に動けなくなり、回復するまで40日ほど撮影が中断するというアクシデントもあり(苦笑)。

 映画がモノクロでいい塩梅に誤魔化されているとはいえ・・・これロケ先は全て国内(カラーだったらもろバレしていたかも)。御殿場に伊豆、箱根の大涌谷小涌谷で撮影したそうだが(若干、背景を合成しているカットがある、と筆者は見ているが)・・・普通に観ている分には全然分からない!これも映画のマジック、市川崑の成せる業といえようか(驚)。

 小説では成り立つ神も、抽象的過ぎて映像にはぶっちゃけ不向きだし(当時はまだCGもないからチャチくなること必至)、市川的演出(脚色やカメラアングル、照明の当て方に編集等々)で殺戮描写やグロも程よい感じで抑えられ、戦地に送られた普通の日本人の末路が原作より良い形で観客に向けて表現されていたと思う。現在の映画も観慣れた筆者は、もっとグロでも受け入れられるけど(笑)。主人公がどういうラストを迎えるのかは、皆さんの目がお確かめください。

 
 原作読んだ人や今作ご覧の方でも、「人食」は創作だろうと思われているかもしれませんが・・・これ、実際にあったらしい。遠い異国の地で補給が絶たれた軍隊は、戦い続ける中、ひたすらひもじくなっていく訳ですよ!こうした実態は最前線に行かず、地図を見ながら会議するだけのお偉いさん達には分からない。本当に戦争は悲惨なものだから「戦争は絶対にしてはいけない!」・・・終戦記念日を前に改めて強く思う筆者なのでありました。


 ・・・先日、「ゾンビ」の監督にして、このジャンルの創始者・ロメロ御大死去。「ダーティハリー」が刑事ものに多大なる影響を与えたが、ゾンビ映画のお約束事を全て作られたロメロの功績は世界映画的にも大。慎んでご冥福をお祈り申し上げます・・・(涙)。