其の612:猛暑は「遊星からの物体X」で乗り切ろう

 ・・・71回目の「終戦の日」も台風も過ぎまして・・・猛暑が続いております(汗)。

 そんな中、お薦めの映画は「遊星からの物体X」(’82・米:原題「The Thing」)ではないでしょうか。場所は南極だし、超気持ち悪い物体も出てくるし、暑い夏に観るにはうってつけ(笑:タランティーノの「ヘイトフル・エイト」の元ネタのひとつでもある)。ちなみに同じ原作の最初の映画化「遊星よりの物体X」(’51・米)の方ではないので(ややこしい)、そこのところは御注意下さい。


 現代(公開当時の80年代)の南極ー。1匹の犬を追ってノルウェー観測隊のヘリコプターがアメリ南極観測隊基地へ現れた。ノルウェー隊員は犬に執拗に銃撃を続けた結果、アメリカ人隊員を負傷させた為、基地の隊長によって射殺される。「ノルウェー隊員は何故、犬を殺そうとしたのか?」。ヘリ操縦士のマクレディ(=カート・ラッセル)らがノルウェー観測基地へ向かうと、そこには死体の山と何かを取り出したと思われる氷の塊、そして異様な姿をした人の焼死体があった。彼らは記録フィルムと焼死体を基地へ持ち帰る事にする。一方、ノルウェー人が追っていた犬は基地内の犬小屋に入れられた。夜になると、その犬は突如奇怪な姿に変形!他の犬からの咆え声を聞いて駆けつけた隊員達は火炎放射器でその生物を退ける。記録フィルムには巨大なクレーターと、約10万年前と推測される氷の層にある巨大な未確認物体を調査する様子が撮影されていた。その頃、基地に持ち帰った焼死体が溶け出し、中から“それ”が出現!隊員らの中に入り込み、その身体を乗っ取ろうとしていた・・・。閉ざされた状況の中、果たして彼ら観測隊員達の運命はー!?


 監督は「ニューヨーク1997」、「要塞警察」ほかで知られるジョン・カーペンター。最初の映画版(→監督はクリスティアン・ナイビイ名義ながら、その大部分はハワード・ホークスが担当)の“それ”は「フランケンシュタイン」のクリーチャーもどきみたいのが出てくるんだけど(それもそれで怖いが)、やっぱり<技術の進歩>のおかげだよねぇ、こちらに出てくる“それ”はもっとグロテスクで遥かに凄い表現になってる!

 ホークス版はジョン・W・キャンベルの原作小説「影が行く」にはないラブロマンス(観客サービスか?)や時代背景にあった「東西冷戦」の影響が見て取れるが、今作では原作の“肝”の部分、<誰が人間でないのか?><自分がとり込まれたのかさえも分からない隊員達の疑心暗鬼>が描かれている(ようやく。もっとも、原作のその部分も“共産主義化”や“赤狩り”を意識しての事だろう)。それを可能にしたのが若き天才ロブ・ボッティンの功績だろう(当時22歳)。

 オリジナルの“フランケンもどき”の他、それまでのベタなモンスターではないロブ・ボッティンのデザイン&造形はいまのCGにもひけを取らないハイクオリティー!あんまり詳しく書けないけど・・・よ〜くこんなデザイン考えたな〜と。「エイリアン」のギーガーに匹敵する偉業だろう(ホント、マジで)。あと操演、大変だったろうな〜と(笑)。事前にカーペンターに「こんな感じでやります」とコンテを提出、工房でひたすらあらゆる素材を使いながら泊まり込みでモンスター作りにいそしんでいたそうで。撮影時には俳優に特殊メイクも施しつつ、幾度も「(作り物ってバレないよう)照明は暗めで!照明は暗めで!」と連呼していたそうだ(蛇足ながら小屋の中でトランスフォームする犬については82年になってもデザインすら決まってなかった為、時間的な問題でスタン・ウィンストン率いるチームが製作)。

 ジョン・カーペンター的には幼少時に「遊星よりの物体X」に強烈なインパクトを受けて映画製作を目指すきっかけとなったと公言しているから、リメイクの依頼が来た時は嬉しかったと思うんだけど(いくら舞台が南極とはいえロケするのは無理なんでカナダのオープンセットとスタジオでの撮影)、彼はいつもは音楽も自分でやっているのよね。ところが今作の音楽はエンニオ・モリコーネ大先生!!静かながらも恐怖がジワーッとくる印象的なスコアを提供しております。そしてタランティーノが影響されたと(笑)。<80年代映画>を語る上で外せないSFホラーの1本です。是非、今作を観て涼しくなって下さい^^。
 
 どうでもいい話ですが・・・2011年に公開された「遊星からの物体X ファーストコンタクト」は82年版の<前日譚>。ノルウェー隊がUFO発見した後、大変な目に遭って犬に姿を変えて逃げ出した“それ”をヘリコプターで追跡する迄が描かれました。いま時、流行りの前日譚パターンですが・・・映画は大コケ!なんでもやりゃいいってもんじゃないって。