<其の784>日本映画が誇る“完全映画”の1本「切腹」(’62)

 毎度の言い訳ですが・・・11月も下旬。コロナ第8波の入り口というのに・・・忙し過ぎる!それに加え、なにもかも値段が上がってきて嫌になっちゃうけど、W杯で日本がドイツに勝利したのは、久々に嬉しい出来事だった^^。

 

 本題。今日取り上げる映画は昭和37年の松竹映画「切腹」・・・です。小林正樹監督、主演・仲代達矢。ごめんなさい、名作&メジャー・・・です。このブログで取り上げるような作品ではないとは思いつつ、こんなに凄い映画なのに現在、国内では忘れられたような存在になっているのが残念すぎて、あえて取り上げようと思いました(海外では高く評価されてカンヌで審査員特別賞受賞してる)。仲代さんも自身の出演作で好きな1本に挙げとります。三池崇史監督の「一命」は今作のリメイク。

 

 江戸時代初期ー。井伊家の江戸屋敷に安芸広島福島家・元家臣の津雲半四郎(=仲代)なる老浪人がやって来る。彼は家老・斎藤勘解由(=三國連太郎)に「仕官もままならず、生活が苦しいので、このまま生き恥を晒すよりは武士らしく切腹したい。そこで屋敷の玄関先を拝借したい」と申し出る。当時、江戸市中には食い詰めた大勢の浪人が「切腹の為に、玄関先を借りたい」と相手に伝え、結果、金品を貰って帰る“ゆすり”が横行していた。勘解由は半四郎に「実は先日もある浪人から同じ申し出があって・・・」と、千々岩求女(ちぢいわ・もとめ)なる若い浪人が来た時の話を聞かせるのだが・・・!?

 

 日本映画の超大作「人間の條件」(第1~6部:上映時間9時間越え!!)を撮り上げた小林正樹監督が再び仲代達矢を主演に迎えた今作。小林監督が黒澤明監督の「用心棒」や「椿三十郎」を観た上で、黒澤時代劇とは異なる自身初の時代劇を作り上げた。タイトルになってる「切腹」シーンは、かなりリアルで・・・ちょっとエグいけどね。

 まず、脚本(橋本忍)が素晴らしい!前半、ミステリーテイストで進行しつつ、半四郎が過去を語り始め、彼の真の目的が次第に明らかになってくる下りは実にスリリング!同時に、これまでの時代劇では描かれなかった武士社会の矛盾、虚飾、偽善、非人間性を告発する深~い内容。これ観ると江戸時代に生まれなくて良かったとさえ思ってしまう(笑)。

 そして映像(撮影:宮島義勇)!カチッカチッと計算された構図、適切に使用される移動撮影にクレーンショット・・・モノクロ映像がめっちゃ美しい(主に京都での撮影)。筆者はちょっと溝口健二の作品も思い出したりして。映画の大半が井伊家の庭のシーンで展開するのだけれど、時間経過を表現する為、気象台に問い合わせして、日の傾き加減を変えていったそうな(こだわってるな~^^)。

 あまり書いちゃうとネタバレするんで、ちょっとだけにするけど仲代と丹波哲郎(!)の決闘シーンは御殿場で、多くの巨大扇風機を使用して強風の中で撮影(ここは黒澤明の「姿三四郎」っぽいシチュエーションだ)。時代劇のチャンバラシーン撮影のセオリーは、引いたサイズでは竹光(=木材で作った模造刀)、寄ったサイズでは真剣を使うんだけど、このシーンの2人は撮影サイズに関わらず真剣で殺陣を演じたという・・・。正に俳優は命懸け!!いまやったら大問題になっちゃう(苦笑)。

 さらに大映作品のような重厚な美術(戸田重昌)に音楽(武満徹)。仲代に三國、丹波のほか石浜朗中谷一郎岩下志麻らがキャラ立ちまくりの熱演。豪華スタッフ、キャストが集結しメチャメチャ完成度の高い映画となっている。「第三の男」とか「レイジング・ブル」はよく全てが揃った<完全映画>なんで言われるけど・・・この「切腹」も<完全映画>と呼んでも過言ではないと筆者は思う。・・・あえて些末な難癖をつけるならば、仲代さんは髪も髭も黒々としているので、もうちょい老けメイクにした方が年齢設定にはあってたと思うし、岩下志麻初登場のシーンの小屋(周囲に立つ木々の花がわざとらしく散る)のセットだけは・・・チャチかったな~(苦笑)。

 

 最後にいいたいこと書いちゃったけど(笑)、とにかく全盛期の日本映画が到達した世界に誇れる一作であることに間違いなし!観ないテはないでしょう^^。