<其の771>西部劇じゃないよ「テキサスの五人の仲間」&「軍旗はためく下に」

 コロナ渦でありながらめちゃめちゃ働いていたら、桜が咲き始めました・・・。

 月刊誌「映画秘宝」が二度目の休刊。最初のムック本が「サイテー映画」で、最終号も「サイテー映画」の特集で終了しました。四半世紀以上、愛読していたので様々な想いがありますが・・・長い間、楽しませて頂いて有難う御座いました!参加されていた方々には感謝しかないです。本当にお疲れ様でした。いつか復活する事を期待しています。

 

 ・・・と、頭から寂しい書き出しになったので(世界も混迷しているけど)、楽しい映画とこの時期ならではの作品と併せて2本書いてみたいと思います。

 1本目はハリウッド映画「テキサスの五人の仲間」(’65)。ポーカーを扱った<賭博映画>の傑作(この作品も最近忘れられつつあるね)!タイトルに反して、舞台はテキサスじゃあないんだけどさ(笑)。

 ちなみに原題とは全然違うこの邦題、1960年に公開されたヒット作「オーシャンと十一人の仲間」(←後年、ジョージ・クルーニー他でリメイク&シリーズ化)の邦題を“ヒント”に、当時の宣伝マンが命名したと勝手に邪推してる(笑)。

 

 お話は西部開拓時代。妻子持ちの男(=ヘンリー・フォンダ)が家族3人でテキサス州へ向かう途中、1泊する為に立ち寄ったホテルで町の権力者たちが集まって大金を賭けるポーカー大会が行われている事を知る。実は彼は大のポーカー狂で、これまでに何度も痛い目に遭っており、妻にポーカー禁止を約束していたものの、彼女が外出した隙をついてメンバーに加わってしまう。有り金を全て失い、借金してまでゲームを続けていたら、あまりにいい手がきた為か、持病の心臓病の発作が起きて、あえなくダウン!そこで夫に代わってルールさえ知らない妻(=ジョアンヌ・ウッドワード)が大勝負に挑む・・・!!

 

 ・・・ね、面白そうでしょ?勝負の結果も気になるけど、最後の最後に大どんでん返しがあるのよ!!勿論、いつものように書かないけど(笑:気になる人は是非観ておくんなまし)。今作はなにより脚本が素晴らしい!いくら演出で頑張っても脚本がダメだと限界あるから。ホント、映画において脚本は大事だよねと当たり前の事を再確認させてくれる好例。

 筆者的にはポーカーメンバーのひとり(あらくれ男)がジェイソン・ロバーズである事がポイント高い。彼とヘンリー・フォンダは後にセルジオ・レオーネ監督作「ウエスタン」でも共演してる(筆者は「ウエスタン」がレオーネの最高傑作だと思ってる)。今作のヘンリー・フォンダはポーカー好きを除けば“いい人”だけど、「ウエスタン」では子供も平気で撃ち殺す“超極悪人”の役だからね~!で、ジェイソン・ロバーズがアウトローながら実はいい奴、という今作とは真逆の設定。ふと改めて考えてみると・・・いろんな人の人生を演じる事が出来る<俳優という職業>は面白い仕事だよね。勿論、役に応じてトレーニングしたりもするから大変な事は百も承知だけど。

 

 もう1本は深作欣二監督作「軍旗はためく下に」(’72)。深作監督といえば「仁義なき戦い」シリーズや「蒲田行進曲」といった代表作がすぐに思い浮かびますが、今作はファン以外はそんなに知名度ないかもしれないけど、重厚な<反戦映画>!!某国の指導者に今すぐ観て欲しい1作。

 

 太平洋戦争終結から二十数年・・・。昭和27年に「戦没者遺族援護法」が施行。だが、戦争に駆り出された夫(=丹波哲郎!!)が敵前逃亡罪で処刑された為、妻の富樫サキエ(=「にっぽん昆虫記」、「飢餓海峡」の左幸子)は遺族年金を受け取れずにいた。ところが軍法会議の記録が残されていない事が判明。夫の死の真相を求めて、サキエは当時の関係者を訪ね歩いていくのだが・・・!?

 

 原作は結城昌治による同名連作短編小説(直木賞受賞)。黒澤明監督途中降板で話題となった「トラ・トラ・トラ!」(’70)で舛田利雄監督と共に現場に参加した深作が、それで得たギャラで自ら映画化権を買い、以前仕事した新星映画社に持ち込んで製作した入魂の一作。共同で脚本も書いている(新藤兼人と2人で脚色を開始したが暗礁に乗り上げた為、「犬神家の一族」他で知られる長田紀生が最終的にまとめたそうな)。

 ヒロインが夫を知る4人の生存者を訪ねていくうちに、戦地で繰り広げられた地獄のような実態(原作と異なりニューギニアを舞台に設定)と夫の死の真相が浮かび上がってくる。・・・この展開は<ミステリータッチ>といっても過言ではないだろう。オーソン・ウェルズの「市民ケーン」の流れにも類似している気がしたのは・・・筆者だけ!?

 深作さんは1930年生まれなので直接戦争には行かなかったものの、敗戦でそれまでの価値観が180度変わった事をリアルに体感した世代。「トラ・トラ・トラ!」はその戦争の始まりを描いた話だが、今作では戦後、復興を果たしたものの、戦争によって人生を大きく狂わせた人々が次々と登場する。

 映画は深作特有のパワフルな映像・・・手持ちカメラでの荒々しいカメラワークにわざと斜めにした構図、カラーとモノクロの色彩の転換、ストップモーションほか様々な手法を駆使(同時に当時のフィルムや写真も大量に使用)。戦争という人類最大の暴力装置がいかに人間を狂わせていくかを描き出す。これらの手法は翌年からスタートする「仁義なき戦い」シリーズ(1作目は終戦直後から話が始まる)へ継承されていく。深作欣二のヤクザ映画ファン、アクション映画ファンも要チェックということで。

 

 丹波哲郎もいい芝居してるし、左幸子は書くまでもなく巧い!出番は少ないながら若き日の藤田弓子小林稔侍が夫婦役で出演している事も付け加えておきます。

 

<どうでもいい追記>少し前の話題ですが・・・映画「大怪獣のあとしまつ」がダメ映画として盛り上がった(筆者未見)。それが本当ならアイデアはいいのに、もったいない・・・。

 その話を聞いて自分は幼稚園か小学校に入学してまもない頃、図工の授業で怪獣がお城に立ち小便する絵を書いて、先生に注意された事を思い出した(笑)。

 怪獣でも宇宙人でも生命活動を維持する以上、なんらかのエネルギーを体内に摂取する必要があるだろうし、よって当然なんらかの形で老廃物として排泄されると思われる。後年、そこに焦点をあてた映画が作られそうな気がするが・・・出来れば、そんなところには光を当てないで欲しい(苦笑)。