<其の737>ニューシネマの感触・・・「かもめの城」

 令和3年も2月の中旬になりました。日本でもようやくワクチン接種が始まりましたが・・・年内に我々の番はくるのかしら??

 

 さて、今回はこれまでの更新とはガラッと流れを変えて・・・久々の「青春映画」です。タイトルは「かもめの城」(’65・仏=米合作)。主演は「シベールの日曜日」(’62・仏)のレジェンド名子役パトリシア・ゴッジ!監督は・・・な、なんと驚くなかれ「タワーリング・インフェルノ」、リメイク版「キングコング」のジョン・ギラーミン!!

 

 フランス・ブルターニュ地方の郊外ー。海を見下ろす崖の上に建つ古びた家に、元判事の父と次女のアニエス(=パトリシア・ゴッジ)、そして若き家政婦のカレンが住んでいた。家族が長女の結婚式に出席するところから映画はスタートする。

 姉もいなくなり、他者と関わりを持たない孤独なアニエスは、穀物をねらうカラスを防ぐ名目で、案山子(かかし)を作る。完成した案山子にまるで恋人かの如く愛情を寄せるアニエス

 案山子が出来てしばらくしたある日、家族は警察の護送車が横転し、複数の犯人が逃亡する様子を目撃する。その夜、嵐になった事からアニエスが案山子の様子を見に外へ出た。すると案山子に着せていた父の古着と帽子を被った男が倒れている。案山子が人間になったと思った彼女はカレンの力を借りて家の中へ運ぶのだが・・・。

 

 なんでも製作のきっかけは「シベールの日曜日」を観て、パトリシア・ゴッジの演技に感銘を受けたアメリカ側が“ゴッジありき”で企画を立てたようで。原作小説を大幅に脚色(場所から家族の設定、後半の展開まで!)して、ゴッジに“寄せた”そうだ。舞台がフランスでゴッジもフランス人なのに、英語を話しているのはアメリカとの合作だから・・・という事で^^。

 見所は何といっても当時15歳のパトリシア・ゴッジの演技でしょう。「シベール~」の時は12歳という事で、どう見ても“少女”だった彼女も、今作では15歳(日本でいえば中学3年生のJC)・・・思春期真っ只中の“ティーン”!!少々精神に異常をきたしている恋する乙女・・・という難役を見事にこなしていると思う。ストーリーもハードな要素が多々入った内容だし(彼女が「未来少年コナン」のラナのように、かもめたちと交信出来ているのかは不明)。出演した映画の数が少ないので「シベール~」のみで語られる事が多い彼女ではあるが、「シベール」の前年にはジャン=ピエール・メルヴィル監督作「モラン神父」(’61)で大スター、ジャン=ポール・ベルモンドと共演していた事は・・・あまりメジャーではないトリビア(笑)。

 そしてジョン・ギラーミン(←この人はイギリス人)の演出。我々世代だと、どうしても彼の一連の<パニック超大作>の数々が脳裏に浮かんでくるのだが・・・今作では初期のフランソワ・トリュフォーをも思わせる瑞々しい演出(・・・誉めすぎ??)。上空のかもめに声をかけるヒロインの姿を真俯瞰から撮影したり、映画の後半、いろいろあってテンぱったヒロイン(ネタバレになるから詳細は書きません)の心象心理としてカメラを傾けて撮影したり(ベタだけど)。怒涛の展開全て込みで・・・やるじゃん、ギラーミン(笑)!! ストーリーや映画の“手触り”含めて、個人的には「アメリカン・ニューシネマ」風だと思った次第。・・・同意しなくてもいいです(笑)。

 

 ちなみに映画のタイトルは「歓喜」の意で、(よくあるパターンだけど)邦題と全然違う!おそらく当時の日本の配給会社が元のタイトルを素直に訳しても意味わからないという事で→→→ヒロイン・アニエスの家の近所に朽ち果てたトーチカがあって(そこを彼女は秘密基地として人形他を持ち込んで遊んでいる)、そこの上空にかもめがワサワサ飛んでいる場面をヒントにつけられた邦題と推察される。言うほどかもめが出る場面はそんなに多くないけど(笑)、詩的&意味深な感じでいい邦題だと思う^^。